堤幸彦監督から見た“嵐”の魅力「五人五様の表現者であり、集まると強力なエンターテイナーになる」<Interview>

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堤幸彦監督から見た“嵐”の魅力「五人五様の表現者であり、集まると強力なエンターテイナーになる」<Interview>

堤幸彦監督が取材に応じた

「五人五様の表現者であり、かつ5人で集まると強力なエンターテイナーになる」――日本を代表するヒットメーカーの1人である堤幸彦監督をしてそういわしめる国民的アイドルグループ・嵐。そんな嵐にとって初のライブフィルム「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」が、11月3日(水)よりドルビーシネマ限定で公開中、11月26日(金)には全国公開される。【写真を見る】嵐5人がステージに立つ姿も…ポスタービジュアル2018年11月から2019年12月までの1年間にわたり、計50公演、1ツアーとして日本史上最大の累計237万5000人を動員した嵐の20周年ツアー。そのツアーの中で、50公演に加える形で2019年12月23日、映画を撮影するために1日限りの特別なライブが行われた。メガホンを取ったのは、嵐主演の「ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY」(2002年)も手掛けた堤監督。嵐の活動を長く見てきた堤監督だからこそ作り得た作品と言える。ドルビーシネマでの先行公開を目前に控えた堤監督にインタビューを行い、今作ができるまでの経緯やカメラ125台を駆使して行われた撮影秘話、長年の付き合いがある堤監督だからこそ感じた嵐の5人それぞれの個性や魅力を聞いた。また、配信、映画、TVドラマとさまざまなフィールドで活躍し続ける堤監督自身の制作における“原動力”についても語ってもらった。――この作品を制作するようになった経緯から教えてください。お話を頂いたのは2018年だったと思います。僕も20代の頃からいろんなアーティストのライブ収録をしていて、特にジャニーズさんには数多くのチャンスをもらってきました。ライブでは会場の制約やルールがあって、なかなか思うように撮れず、究極のかっこいい作品を作るというのが難しいんですけど、今回は話し合いの結果「撮影のためにライブを1日やろう」ということで始まりました。だったので「それなら」と(笑)。それで最初に思い浮かんだのが“5×20(ファイブ・バイ・トゥエンティー)”ということで「100」という数字。「カメラ100台で撮りましょう!」と提案しました。ダメならダメでいいと思っていたんですが、結果、それ以上の台数で125台になりました(笑)。――撮影のためにライブを行う。この大前提があることで、これまでのライブ収録とは全く違うことができますよね。そうなんです。ジャニーズさんの舞台では(撮影スタッフが)ステージに上がらないという暗黙のルールがありまして、お客さんと被写体の間にカメラを入れて邪魔をしないというのももちろん常識的なルールになっているんですが、「いままでにない形で撮影出来ないか?」と提案をさせてもらい、かつ、まだ東京ドームでのライブ収録で使ったことのないドローンを縦横無尽に使うことも含めて話し合いました。――いつもは出来ないことに挑戦されたんですね。嵐の主演映画を撮っていた、普段は映画を撮ってるカメラマンにもたくさん集まってもらったので、その日は他の映画やドラマの撮影が止まってしまうような状況だったと思います。皆さん、一兵卒として参戦していただいたんですが壮観でしたね。例えば映画の現場でエキストラを含めて大勢の人がいる瞬間もありますが、撮影する側がギラギラと大勢でカメラを構えているのは初めて見ましたし、一生に一度しかないと思います。積年の思いの丈を遂げることができたので、本当にやっていて楽しかったです。――ちなみに、今回125台のカメラを使用されたということですが、東京ドームでのライブシューティングだと通常は何台ぐらいのカメラを使いますか?多くて4、50台ではないでしょうか。それぐらいあれば相当立派な映像作品ができます。――その3倍のカメラを使って、やりたかったことが実現できたわけですね。はい。撮影自体は楽しかったんですけど、その代わり、編集は時間がかかって地獄のように大変でした(笑)。でも、2020年に入って新型コロナウイルスの影響でステイホーム時期に突入して、他の作品の撮影がストップしてしまったので、編集室に足しげく通って1カットずつ確認しながら時間をかけて作ることができました。自分の会社の部下も含めて、3~4人のディレクターが曲の担当を決めてつないでいく。それを何度も何度もやって、その上で125台のカメラに映っている映像と作ったものを見比べながら、「ここはこうしよう」とか、パズルを作り直すようなことを延々とやった結果が今回の作品なんです。――ライブ自体の演出は松本潤さんが担当されていますが、この映像作品を作るにあたって松本さんと打ち合わせは?何度もしました。1年半以上ライブを見せてもらいながら、「この曲では何を一番訴えたいのか」などを教えてもらい、かつ話し合いながら、こちらも撮影の手法を考えていきました。僕も舞台の演出をやる端くれですが、“演出家・松本潤”はそういう立場から見てもえらく細かくて“志の高い”演出をします。「ここまでやるか!」というぐらい微に入り細に入りを徹底しているんです。自身もステージで歌うわけですが、振り付けの方に自分のポジションに入ってもらって、自分は2階席の一番前の全体を見られる位置から指示を出したりして、全体のバランスも見ていました。東京ドームって平面じゃなくて立体ですからね。それもちゃんと頭にあって計算しているんです。それでいて、今度は演者としてステージに立つと、「あいつ、振りを間違えないんだよね」って櫻井翔くんが言ってたんですが、それぐらい表現者としても素晴らしいんです。そういう意味で、すごい演出家だなって。――意志とレベルの高さがうかがえますね。松本くんが14歳の時、まだ嵐になる前だけどドラマ「ぼくらの勇気 未満都市」(1997年、日本テレビ系)に出てもらっていて、2002年に映画「ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY」で嵐5人と会い、その後の大活躍を見てきているので、5人ともそうなんですけど「あいつら、立派になったなぁ」って親戚のおじさん的な思いもあります(笑)。プロ同士の会話もありつつ、甥っ子たちが立派になったんだから恥をかかせられない。うまく撮ってあげたい!っていうプライベート感みたいな特別な感情もあって、非常にいろんな思いが錯綜していたのは確かです。――堤監督から見た5人の個性、魅力は?今回のライブでニノ(二宮和也)のシャウトの力ってすごいなと思いました。鬼気迫るものがあったんです。普段は温和な感じですし、ドラマや映画でもそういうキャラクターを演じることが多いのですが、ライブのステージでの姿はまた違うものがあるなって。歌いながら独特の切なさがありますね。大野(智)くんは、もちろん歌も上手なんですが、踊りのキレがいい。アーティストという領域に入ると突然豹変したかのようになって、キレのいいダンスを含めて、素晴らしい表現を見せてくれます。たった1人でも東京ドームを相手にできるスゴさがありますね。相葉(雅紀)くんはクールな役を演じていても人となりがにじみ出てますよね。それがいいんです。背が高くて、“かっこいい”という言葉がピッタリくるというか、今回撮らせてもらって改めて思いました。翔くんはラップがすごいし、ピアノがこれまたすごい! 表現力が豊かなんでしょうね。それだけでなくニュースキャスターもやっていて、その多才さが魅力です。そして松本くん。エンタメの巨大な舞台を作り上げる度胸と“きめの細かさ”をこの何年間かで目の当たりにしました。彼がつかみ取った“高み”は、僕なんかが表現できないぐらい高いところまで達しています。五人五様の表現者であり、かつ5人で集まると強力なエンターテイナーになる。そういうところをこのフィルムの中からも見て取れるんじゃないかと思います。――実際にライブフィルム撮影を行ってみて、最初に思い浮かべていたイメージとは違ってきた部分もいろいろあると思いますが。思っていた以上のものになりました。ステージの演出上、彼らは常に動き回っています。そんな5人に対して、1人につき10~15台のカメラは必ず撮っています。それはある種、ライブ収録の理想形だったわけです。編集に時間がかかったと言いましたが、それぐらい映像の素材があるんです。「この瞬間、ニノはどうしてるの?」と思った時に、ちゃんとニノの映像があるんです。すごくぜいたくな撮影でしたね。――5人それぞれの動きや表情などを撮り逃さないためにも、その台数のカメラは必要だったということですね。はい。会場全体がどうなっているのか、ステージ上はどういう状態なのか、それぞれの表情はどんな感じなのか。この作品ではそういった情報を徹底的に見せたいと思っていました。そのためにカメラの配置やシフトを考えましたが、それ以外にもスペシャルな化学反応みたいなものが起こるんです。お客さんとのコミュニケーションだったり、メンバー同士の手がちょっと触れたり。そういうものも可能な限り多く見せたいと思ったので、一つのカットは短く、そしてカット数は本当に多いんです(笑)。「映画としてどうなんだ?」というところで言うと、ドルビーシネマを象徴とする色彩や奥行き感など映画的な処理をさせてもらっていますし、何よりも音の臨場感に関しては多くのスタッフがこだわっていて、ひと言で表すと“没入感”もたっぷり味わえる仕上がりになっています。劇場で見られた方は、ものすごい臨場感で記憶の端を刺激されるような感覚になる、そんな自信作です。――ライブの本編だけに特化しているのもこの作品の特徴だと思いますが。MCもない、アンコールもない、本当に最小限の情報だと思います。バックステージの映像もありませんし、舞台上に立つ寸前の暗闇からスッと顔が浮かんで、ドローンが飛んで…、というところから始まりますが、本編だけにすることは最初から決めていたわけではありませんでした。何度も彼らと意見交換をしている中で、何が一番強いかという話をして決まりました。この作品では過剰にオフを表現しない、とにかく舞台の上に立っている彼らだけで勝負する。それが強い印象を残すいいやり方じゃないかって。――特に印象的なシーンは?全部が全部見せ場なんですが、自分の中で一番思いがこもっているのは、冒頭の手のひらからドローンが飛び立って、それで5人を撮って、ドーム全体を見せるところですね。それは私がやりたいと思っていたことなので。手のひらサイズのドローンなんですけど、手に乗せたまま4分ぐらい待っててもらわないといけないんです。撮影のメインカメラをメンバー自身に持ってもらって、緊張していたと思うんですけど見事にやってくれました。最後にまたドローンが戻ってくるという演出で、入口と出口がうまく出来たので、もちろんその間の中身も見せたいところばかりですけど、僕としては大成功です。――嵐をはじめ、ジャニーズのコンサートや舞台は最先端の技術と演出が駆使されている印象がありますが、この作品はそれらをさらに突き詰めた最高峰の作品に。はい。ジャニー喜多川さんにもし見ていただけたとしたら、喜んでくれるといいなぁって思いました。――今回の作品でもこれまでのライブ収録ではやれなかったことにチャレンジしたり、他にも映画、配信ドラマなど、精力的に制作されていますが、堤監督の制作における原動力は?“常に自分が作ったもの以上のものを作りたい”という気持ちですね。ライブ映像という仕事においては、カメラの台数的にも音のテクニカルな作り方にしても、たくさんのディレクターと一緒に作って、かつ自分がその責任者としているシステムに関しても、この作品は最高峰です。そして、嵐という長年付き合いのあるアーティストの最高の檜舞台を作りたいというシンプルな思いを遂げたこと。これも次につながるモチベーション、出発点になりました。――嵐ファンはもちろん、ライブやエンタメに興味のある人は誰もが楽しめる作品だと感じました。監督としては、特にどういう方に見てもらいたいですか?“今のショービジネスの最高峰はどこにあるんだ?”と思っている人には特に見てもらいたいですね。松本くんの演出の中にエンタメのショーのヒントとなる部分がたくさんありますし、映像表現という私のフィールドにおいても、「こんなにたくさんのカメラが同時多発的に表現できるんだ」ということに改めて気付いてもらえると思っています。音の仕上がりの良さも自分自身でビックリするぐらいの臨場感と没入感があるのでぜひ映画館で見ていただけるとうれしいです。◆取材・文=田中隆信

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