京王線車内の事件映像、一般人の顔出しに問題なし? 「肖像権」に詳しい専門家の見解は

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一般人によるスクープ撮影が報道で多用 国士舘大法学部・三浦正広教授に聞いた

ネット社会における「肖像権」の線引きとは(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 10月31日に起きた京王線電車内での刺傷事件で、現場を撮影した映像・写真が注目を集めている。中でも、車両内で逃げたり窓から脱出したりする人たちを捉えた映像は、ニュース報道で多用された。一般の人たちによるスクープ撮影が世に広まった格好で、SNSでも拡散している。一方で、容姿を無断で撮影・公表されない権利である「肖像権」を気にする声も出ている。事件・事故・災害時の撮影に関して、ネット社会においてどう考えるべきか。専門家に聞いた。(取材・文=吉原知也) 肖像権や知的財産権に詳しい国士舘大法学部の三浦正広教授によると、相手に許可なく他人を撮影する行為は原則、無断撮影になり、「肖像権の侵害」に当たる。ただし、公共性の高い報道目的であれば肖像権は制限される。撮影の対象が有名人・政治家といった公共の利益に関わる人物に対しても、同じく肖像権が制限される場合がある。また、肖像権の議論では、撮影自体の「撮影行為」と、撮影したものを利用する「利用行為」を分けて考えるという。 今回の現場映像を使った報道により、事件の詳細がより明らかになった側面もある。社会的意義はあると言えるだろう。 今回のケースのように、一般人が撮影した映像の提供を受けた報道機関が映像を利用する場合、どのように取り扱うかは、新聞・放送など報道機関のメディアの判断に委ねられることになる。事件発生当初は、車内で逃げ惑う乗客の顔はそのまま報道されていたケースもあったが、人々の顔にモザイク処理がかかっていることが多い。社会を揺るがすような緊急性のあるニュースで、速報時にモザイク処理をかけられるかどうか。緊急時の報道においても課題があることも確かだ。 高機能カメラを搭載したスマートフォンが普及し、SNSのコミュニケーションが通常化している現在。一般人が、自身が撮影した映像・写真をSNSにアップし、個人間でSNS上で拡散する「利用行為」は、実際問題として止められない現状もある。そもそも、肖像権の理論自体が、インターネット社会の現代の事情にかなうものになっているのか。 三浦教授の解説では、肖像権の議論は19世紀半ばにカメラが発明されたころにヨーロッパで始まったという。もともとは、肖像画・銅像・彫像に関わる文字通りの「肖像」からくる。肖像の作製には本人の同意が必要という議論が出発点だ。20世紀初頭になってカメラが小型化され、無断撮影や無断利用が横行し、それに対して「肖像権」の理論が確立されていったという。 三浦教授は「インターネットが当たり前になった今の時代に通用するのかどうか。個人の人権・人格は時代が変わっても守らないといけないもの。ネット時代だからと言っても、無断撮影・無断利用が許されるものではない」と強調する。 映された本人から申し出があった場合、個人のSNSであっても、掲載を取り下げたり、モザイク処理した動画を再アップする対応は可能だ。ただ、一度アップした映像・写真は瞬く間に拡散してしまう。 SNSや動画サイトを運営するプラットフォーム側が、より的確なルールや利用規則を確立することが重要だ。個人のSNSがニュースの発信源になるケースもあり、報道としての側面を持ち始めている。三浦教授はSNSと報道機関の在り方について関しても「議論を深めるべきだ」としている。

吉原知也

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