大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第5話。泣きながら舟を漕ぐ江間次郎(芹澤興人)(C)NHK
◇「鎌倉殿の13人」江間次郎役・芹澤興人インタビュー(中)NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)で八重の夫・江間次郎役を演じる俳優の芹澤興人(たてと、41)が“いぶし銀”の存在感を発揮し、話題を集めている。芹澤の好演も相まって「江間次郎が不憫」などとSNS上に同情の声が続出。大反響を呼んだ第5回(2月6日)の「涙の舟漕ぎシーン」の舞台裏や、初共演となった八重役の女優・新垣結衣(33)の魅力を芹澤に聞いた。<※以下、ネタバレ有>ヒットメーカーの三谷幸喜氏が脚本を手掛け、俳優の小栗旬が主演を務める大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。新都・鎌倉を舞台に、頼朝の13人の家臣団が激しいパワーゲームを繰り広げる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は8作目にして大河初主演に挑む。芹澤は09年、主演映画「最低」(監督今泉力哉)で「第10回TAMANEWWAVEコンペティション」ベスト男優賞を受賞。バイプレーヤーとして、数々の映画やドラマで活躍。大河ドラマ出演は17年「おんな城主直虎」、19年「いだてん~東京オリムピック噺~」に続き、3年ぶり3作目となった。今回演じる江間次郎は、流罪人・源頼朝(大泉洋)の監視役だった伊豆の実力者・伊東祐親(浅野和之)の家人。狩野川を挟んだ北条家の対岸、江間を本拠とする。祐親の娘・八重(新垣)は頼朝の最初の妻だったが、父に2人の間を引き裂かれ、粗末な館に住む次郎のところに嫁いだ。第3回(1月23日)、次郎との身分の差もあり、八重は「夫と思ったことはございません」と父に告白。さらに第4回(1月30日)、次郎から三島明神の祭りに誘われると「あなたと?」と冷ややかだったしかし八重は次郎との会話の中から、伊豆国の目代・山木兼隆(木原勝利)が館にいるかどうか、愛する頼朝の挙兵の最重要情報を手に入れる。次郎によると、山木は前日に落馬し、足を痛めたため館にいるという。八重は頼朝との逢引の合図だった白い布をくくり付けた矢を対岸の北条館へ放ち、察知した頼朝と北条義時(小栗)はこの夜の出陣を決め、初戦に勝利した。第5回(2月6日)、戦が始まり、八重は江間館から伊東館に移るよう、父の指示を次郎から伝えられると「私はここにいます。戦が始まるのですね?勝てますか?勝ってもらわねば、困りますよ。北条は強いですよ」。次郎は「北条らが大庭勢と戦っている間に、我が伊東勢が背後を攻め、挟み撃ちに。勝ちます」と図らずも作戦を明かしてしまう。八重は舟着き場に急ぎ「舟を出しなさい。(挟み撃ちの作戦を)佐殿にお伝えしなければ。舟を出しなさい。佐殿をお助けするのです。早くしなさい。いいから早く」と次郎に命令。次郎は「なにゆえ。できませぬ。私はあなたの夫だ。侮るな!」と叫んだが、舟を出さざるを得なかった。八重は「ひどい女だということは分かっています。いくらでも憎みなさい」。次郎はすすり泣きしながら舟を漕いだ。愛する頼朝のために動く八重に、またもや手を貸す結果となった次郎。SNS上には「江間殿、お気の毒すぎるな…何という役回り」「監視役とはいえ、つらいねぇ」「江間次郎に感情移入してしまう」「いい加減、今の夫にも心を開いてよ、八重さん」「当時の格差婚、普通に残酷だな…」などと同情の声が相次いだ。そして第8回(2月27日)、1180年(治承4年)10月7日、石橋山の大敗から1カ月半、ついに鎌倉入りを果たした頼朝の大軍は総勢3万。一気に劣勢に陥った祐親は伊東館に留まり、頼朝迎撃を決意。「血筋の良さを鼻にかけ、罪人の身で我ら坂東武者を下に見る。あんな男(頼朝)にどうして愛娘をくれてやることができようか!」。さらに「頼朝に決して八重を渡してはならん!攻め込まれたら…分かっておるな」と次郎に“厳命”。次郎は書をしたためる八重の背後に忍び寄り、刀に手をかけた――。――「涙の舟漕ぎ」シーンを演じるにあたって、どのようなことを心掛けましたか?「『侮るな』という言葉は、江間次郎にとっては八重さんに一番言いたくない言葉であって、同時に一番言いたかった言葉なんだと思います。自分の中で矛盾しているその想いを口にしてしまって、江間次郎の心は壊れてしまったんじゃないでしょうか。そういう涙だと思います。それに『侮るな』の声が裏返ることができたら、江間次郎の人となりや、大声を出すことに慣れていない人ということが表現できるんじゃないかなと。台本を読む限りでは、もう少しギリギリまで感情にフタをして芝居をするつもりでしたが、その場に立って芝居をしてみると、八重さんの口から出てくる『佐殿』いう言葉や、あからさまな態度、懸命さに、感情のフタをバンバンと外されて、あのような芝居になったという感じです。舟ですすり泣くシーン自体は、泣き始めからカメラを回していたのですが、本番前に吉田(照幸)監督は『泣くのをギリギリまで我慢して、それでも出てきてしまうようにしてください』。本番は泣いちゃ駄目だと思いながら迎えたのですが、我慢すればするほど涙が止まらなくなって、あのようになりました」――「涙の舟漕ぎ」シーンも含め、芹澤さんご自身は江間次郎役の反響をどのように受け止めていらっしゃいますか?「反響が大きいことはとても嬉しいです。ですが、僕1人では芝居はできないですし、共演者の方々、スタッフの方々がいて初めて江間次郎像が出来上がっているので、反響の大きさは僕1人の力ではないと思っています。男らしさとか武士らしさのような『らしさ』が今よりもっと求められた時代では、江間次郎のような優しい人間は凄く生きにくかったんだと思います。その生きづらさを踏まえた上で、江間次郎を『こういうことをした人物』というよりは『こうすることでしか生きてこれなかった人物』として視聴者の皆さんが捉えてくれたんじゃないでしょうか。僕も江間次郎をそのように捉えた時に、彼のことが凄く好きになり、理解者でいようと思いました。それと同じことが見ている方々の中で起こったのかもしれません。そして、視聴者の皆さんが江間次郎と一緒にちゃんとドキドキしたり、ちゃんと傷ついてくれたんだと思います。そういう意味では、あらためて『物語』の持つ力を感じています」――新垣結衣さんとは初共演になりました。「対峙して一番に感じたのは強い意志が宿っている眼差しです。それは、芝居で出そうとしても出ない部類のものなので、新垣さんが元々持っているものなんだと思います。これは僕の推測ですが、きっと新垣さん(八重さん)は僕(江間次郎)なんかよりも、もっともっと遠くの目標物が視(み)えている人なんだろうと感じました。そこに到達すべく必要な、強い意志が眼差しに表れているんじゃないでしょうか。あるシーンで新垣さんの目を見て芝居をしていたら、自分では思ってもなかった台詞の出し方をした時があって、何か導かれた感覚がありました。それからは現場で芝居に迷った時や怖くなった時、新垣さんの目を見るようにしました。強い意志を持って現場に居続けていただいたので、僕が大いに悩んでも勇気を持ってチャレンジすることができました。本当に感謝しています」=インタビュー(下)に続く=