SkyDrive福澤CEOが語る「空飛ぶクルマ」最前線 --2023年度に大阪でエアタクシー実現へ

 「空飛ぶクルマ」が、モビリティ分野の新たな動きとして注目を集めている。Uberが2016年に公表したホワイトペーパーを契機に、空飛ぶクルマの開発は世界各国で進められてきた。日本ではSkyDrive(スカイドライブ)が、2023年度のサービスインに向けて開発を加速中だ。2020年8月には公開有人飛行試験に成功し、世界のトッププレイヤーを猛追しているという。

SkyDrive代表取締役CEOの福澤知浩氏(左上)

 SkyDrive代表取締役CEOの福澤知浩氏は2月3日、「常識を再定義するニュービジネスが前例なき時代を切り拓く」と題して2月に1カ月かけて開催されたオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2021」に登壇。空飛ぶクルマの開発状況や2023年の実用化という目標、さらに先に見据える未来まで、空における新産業創造の最前線を語った。答えきれないほど多くの質問が寄せられた質疑応答の様子も含め、講演の内容をレポートする。

空での移動を「日常」にする

 以下は、2020年8月にSkyDriveが公開有人試験飛行に成功したときの映像だ。世界中を見渡しても、有人試験飛行に成功した企業は、まだ10社ほどしかないという。その理由について福澤氏は、大きな機体を安定飛行させるための技術的な難しさと、求められる安全性の高さを挙げる。

 モデレーターを務めたCNET Japan編集長の藤井は、動画を見ながら思わず聞いた。「私もこの映像を見て驚いたが、操縦していたのはどのような方なのか?」。これに対し福澤氏は「この道20年、ドローンやラジコンを作り続けてきた方。機体を知っていて、飛ばすスキルがあり、緊急時にも対処できるという観点で選んだ。今後は、こういったテストパイロットも養成していこうと思っている」と答える。

 また先を見据えて福澤氏は、こう続けた。「空飛ぶクルマは航空機。一般のお客様を乗せて飛ぶためには、エアバスやボーイング並の安全性や品質レベルが求められる。それがここからのチャレンジだと思っている」(福澤氏)

 安全性の担保は最重要課題であるとしたうえで、福澤氏は「日常的な移動で、空を使えていない。これはかなり不便なことではないか」と問いかけた。そして、「地上の移動では迂回、乗り換え、交通渋滞、満員電車などがある。空の移動では空港を経由することで遠回りになることもある。空飛ぶクルマなら、低コストで安全快適に短時間で移動でき、インフラが整備されていない地域にも、楽しみながら移動できる」と話し、実現するための技術要素も揃ってきたと説明した。

空飛ぶクルマのイメージ 空飛ぶクルマの特徴と利点 空飛ぶクルマで実現したいこと

 空飛ぶクルマは、いまや世界中で注目の的だ。グローバルマーケットの概況はいかに。福澤氏の解説はこうだ。「2016年10月にUberが公表したホワイトペーパーを契機に、空飛ぶクルマには大きなビジネスチャンスがあるという認識が広まって、空飛ぶクルマは世界的に盛り上がっている。2019年にドイツのボロコプターがシンガポールで有人試験飛行に成功したときは、かなり話題になった。一般人を乗せるサービスはまだないが、ここ3年以内にサービスがスタートし、そこからだんだんと市場が大きくなるのと見ている」(福澤氏)。

ドイツ・ボロコプターの有人試験飛行 モルガン・スタンレーによる市場予測

異例の開発スピードで世界を“猛追”

 このような世界の動きに対し、SkyDriveは異例の開発スピードで“猛追”している状況だという。会社設立前のプロボノでの開発を含めても、SkyDriveが有人試験飛行までに要した期間は圧倒的に短い。これには、福澤氏の古巣であるトヨタ自動車を含む、さまざまな企業からの支援があったという。愛知県豊田市との連携協定もその1つだ。広大な開発拠点を構えたことで、開発と試験飛行を同時に実施できるようになった。これは大きなアドバンテージになっている。

 「愛知県豊田市の山奥に、開発拠点がある。最寄駅から徒歩で8時間、コンビニからも車で20分。当初は、優秀なエンジニアの方がこんな山奥に就職は……と戸惑われることもあったが、この立地だからこそ安全や騒音の面で周囲に迷惑をかけず、開発に集中できる。中国深圳などにある作ったらすぐに飛ばせる企業は、開発スピードが速い」(福澤氏)

開発拠点と、愛知県豊田市との連携協定の様子

 福澤氏は「開発方針は小型」だと言い切る。普通乗用車2台分の駐車場スペースから飛べるサイズ感。これなら本当に、空を“日常使い”できるという。最新機体は四隅に上下2枚ずつ、合計8枚のプロペラとモーターを備え、どれか1つが止まっても飛行を続けて緊急着陸でき、万が一落下したときの衝撃吸収も考慮されているという。福澤氏は、「安全性を最重要視して開発を進めている」と強調した。当初の航続距離は10〜20km程度。かつて電気自動車がそうだったように、バッテリーの進化とともに距離を伸ばしていく。並行して、制度整備や社会受容性の向上を図るという。

 そして「2030年くらいからは、走ることも手がけたい」と意気込みを見せた。そこには「日本発のハードウェアスタートアップがうまく進んでいくことによって、日本の物づくり産業を活性化したい」という想いもある。

 「日本のハードウェアスタートアップは、米中に俄然負けている。大企業の優秀な方々がスタートアップという選択肢に気づき、かつ行きたいと思える会社が存在するようになると、日本のものづくりはどんどん展開するはず。僕たちがうまく進んでいくことによって、より多くの人たちが俺もやろうと思っていただける、そのような貢献をしていきたい」(福澤氏)

「有人機SD-03」 将来的な空飛ぶクルマ 空飛ぶクルマの進化

2023年度に大阪でエアタクシーを実現へ

 SkyDriveは、2023年度に大阪でのサービスインを目指して、開発のみならずさまざまなステークホルダーと連携して取り組みを加速中だ。考えられるユースケースは、遊覧・観光、エンターテイメントから、ドクターヘリの代替としての救急医療まで幅広い。まずは、安全性の観点から飛行許可を取得しやすい海上ルートであり、一定の輸送ニーズが見込める東京、大阪の湾岸エリアでサービス実現を狙うという。

 なかでも実現味を帯びてきたのが、大阪港湾と夢洲を結ぶエアタクシーサービスだ。USJ、海遊館、万博会場など、インバウンドも含めて年間2000〜4000万人の来訪客が見込まれるというが、電車では20分、地上交通では道が1本。利便性に改善の余地があるエリアだ。

 福澤氏は、「空飛ぶクルマなら、5分で行けて、楽しく、景色もいい。エンタメ的な移動として、利用客を見込めるのではないか」と期待を滲ませた。2020年11月には大阪府が事務局となり、「空の移動革命実装 大阪ラウンドテーブル」が設立され、SkyDriveも参画した。このほか、さまざまなステークホルダーと連携したインフラや制度の整備にも奔走している。機体評価、免許、離発着場、駐車場や充電施設、複数の機体が飛び交うときの管制など、2023年度の実用化に向けて多方面で議論が進んでいるという。

ラウンドテーブル 事業会社との資本提携

 また直近では、人の移動のみならず、物の輸送も手がけている。山間部や建設現場などへ、最大30kg程度の資機材を輸送する無人機、つまりドローンも開発中だ。この重量は、一般的な物流ドローンと比べてかなり大きい。ドローンによる輸配送は、2022年度に市街地などの有人地帯における飛行が規制緩和され、空飛ぶクルマより一足早い社会実装が見込まれている。福澤氏は「無人機と有人機のコア技術は共通。空域データなどを有人機の開発にもフィードバックしながら、両輪で開発を進めていく」と話した。

 最後に福澤氏は、2030年を見据えた未来にも言及した。米国では、エアリーコリドーと呼ばれる空の道の研究も進んでいるという。福澤氏は「今後は、移動しなくてもいいものはバーチャルで、本当に大事な移動はお金を払ってでも最適な移動をしていくようになる。MaaS的な3密じゃないパーソナルモビリティで、かつCO2排出量も少ない空飛ぶクルマによって、人々の移動や生活を豊かにしていきたい」と講演を締め括った。

SkyDrive 2つのプロダクト

「本当に最適な移動とは何か」を再定義する

 本セッションでは、後半のQ&Aにも視聴者から非常に多くの質問が寄せられた。質問内容は、値段、性能、技術、ビジネスなど多岐に渡ったが、その一部を紹介する。

——ぜひ乗ってみたいが1時間の料金はいくらになりそうか?

 最初は1時間も飛ばないので10数分くらいになる。既存のヘリコプターの約半額、2万円程度でスタートしていければ。量産していけば10分の1くらいに下がると思う。

——個人所有の場合はいくらになる?

 まだ全く確定していないが、最初は5000万円くらいのイメージ。ただ、これからの時代に所有はあまり増えないと思う。リースやタクシー的な利用になるのではないか。

——空の移動では、高速道路のように“空料金”がかかる?

SkyDrive福澤CEOが語る「空飛ぶクルマ」最前線 --2023年度に大阪でエアタクシー実現へ

 インフラが必要ないのであまりかからないはず。離発着場はかかるかもしれない。

——上昇高度や上昇までの時間は?

 現在決まっているのは150m以上ということのみ。ただ、僕たちはあまり高く飛んでも遠くまで行けないので、150m〜200mくらいかなと思っている。上昇までの時間は1秒間に3〜5mくらい。

——地権者はどうなる?

 地上から150mまでは地権者のエリアだがそれより上空はおよばない。既存の航空機に則ってやっていく。ちなみにドローンは150mより低いので調整が必要。

——地上も走れるのか?

 公道を走るためには、エアバッグなど道路交通法適用のためにさまざまなものが加わって、重くなる。最初は空を飛ぶことを中心にやろうと思っている。

——どんな通信方式を想定しているか?

 いろいろと検討中だが、航空機で使われているものが中心になると思う。また、ドローンではLTEなども使われており、さまざまな通信方式のハイブリッドになるのではないか。

——空中でもLiDARのような自律系のセンシング機能が必要になるのか?

 それはおそらく必要だと思うが、今の航空機と同じような管制システムが必要だと思う。

——海上飛行に於ける安全対策はフロート装備になる?

 フロート装備にしようと思っている。

——悪天候の際の運行は?

 ヘリコプター並という感じ。悪天候の場合は安全面からNGにする。最初は成功率8割くらいかなと思う。

——運転に必要なライセンスは?

 いま国土交通省と有識者とで議論している。

——離発着ポイントは決まっているのか?

 大阪については、少しずつ話が進んでいる状況。

——最初は何人乗りか?

 まずは2人乗りで考えている。

——あえていうならライバルはどこになる?

 ドイツ、アメリカ、中国に有人飛行を手がけている会社があって、3〜4社かなと思っている。ただし、それぞれ形状や飛行性能が違うので、用途によって選べる機体も違うのではないかと感じている。

——関西でもPPKPが空飛ぶクルマを開発しているが連携などの予定は?

 意見交換はさせていただいているが、作る機体のタイプが違うので、市場はあまりかぶらないように思う。

——実証実験を検討している場所は?

 騒音の問題など環境の制約があるので、いろいろなところが話しているところ。最近では、スーパーシティの話が特に多い。

——さまざまなユースケースがありそうだが、最も市場規模が大きいのはどの用途か?

 通勤などに使うものが一番大きいと思うが、ここ3〜5年以内はないかなと感じている。

——日本より先に海外で実用化が進むこともあるか?

 大阪万博以外では、あり得ると思う。東南アジアなど。

——(モデレーターの藤井より同カンファレンスの共通質問)福澤さんにとって「常識の再定義」とは、どういうことを意味しているか?

 常識の再定義とは、いまいかに地べたを這いつくばいながら移動しているかを(人々が)知って、空の移動に変わっていくことだと思う。