ロボット戦闘車 本当に実現するのか? 電気犬 ゴリアテ ウラン9…続く試行錯誤の歴史

 最近では2020年1月3日にイラクのバクダッド空港付近で、イラン革命防衛隊の「コッズ部隊」司令官ソレイマニ少将が、アメリカ軍無人機からの攻撃で殺害されました。使われた無人機はアメリカ軍特殊作戦コマンドのMQ-9「リーパー」で、カタールの基地を離陸し、アメリカのネバダ州にある空軍基地から遠隔操作されたようです。

「リーパー」のようなミサイルを抱えた大型機から、空撮に使う手のひらサイズのドローンまで、周囲状況をある程度自身で判断して自律飛行できる軍用、民間用無人機は世界中を飛び回っている一方、地上に無人車はまだ走り回っていません。人間にとっては飛行機を操縦するよりクルマを運転する方が簡単ですが、ロボットにとっては地上を動き回る方が難しいようです。

 戦場で働くロボット車の研究は、第1次大戦前から始まっています。1915(大正4)年にアメリカの発明家が「Electric Dog(電気犬)」という自動運転車を公開しました。操縦者のもつ懐中電灯などの光源を感知して、光の強い方向に操舵するというものです。第1次大戦が始まると前線で無人の荷物運搬車に使うことも考えられましたが、精度が悪く実用にはなりませんでした。

ロボット戦闘車の先駆け ドイツの「ゴリアテ」と日本の「い号」

 ロボット戦闘車の先駆けとして有名になったのは、第2次大戦に登場したドイツの「ゴリアテ」です。全長1.5m、幅0.85mの、履帯(いわゆるキャタピラ)で動く有線式小型リモコン車に100kgの爆薬を積んだ「自走爆薬」で、障害物を遠くから破壊しようという工兵用の兵器でした。7500台以上生産されましたが、有線ゆえこれが切断したり故障が多かったりとあまり活躍しませんでした。

イギリス軍に鹵獲されたドイツ軍の「ゴリアテ」遠隔操縦車。

 日本でも同時期に、ドイツの「ゴリアテ」と同じアイデアの遠隔操縦機材「い号」が作られています。技術交流は無く偶然の一致です。

 できるだけ安全に爆薬設置作業を行うという目的は同じですが、「い号」はもう少し大がかりでした。発電車、電動車、作業機、操縦器の4つの機材で構成され1個小隊で運用されました。爆薬を置いたら作業機はできる限り退避するということで、「ゴリアテ」のように自爆が基本ではありません。

 約300セットが生産され、対ソ戦に備えて満州に駐留する独立工兵第二七連隊が装備しましたが、実戦には使われませんでした。終戦後アメリカ軍が興味を持って、資料を収集していたようです。

ロボット戦闘車 本当に実現するのか? 電気犬 ゴリアテ ウラン9…続く試行錯誤の歴史

 戦後も防衛庁(当時)が、M24軽戦車をベースに無人地雷処理車両を試作しています。地雷や爆薬を扱う作業が、どれだけ危険性の高い任務かがうかがえます。M24はオートマチックトランスミッションだったこともあり遠隔操縦は比較的容易で、試作車は完成したものの、肝心の地雷処理器材が完成せず日の目を見ませんでした。

 そして2020年現在、爆発物処理など危険な作業を支援する小型リモコン車はすでに多く使われるようになりましたが、自律的に動ける「ロボット戦闘車」といえるものには至っていません。たとえばロシアは2018年、「ウラン9」というロボット戦闘車をシリア内戦に持ち込みました。どこに敵が隠れているか分かりにくい市街戦で、ロボット戦闘車は期待されましたが、電波障害や操縦不具合などにより、兵士が近くで面倒を見てやらなければならず、実用化には尚早と評価されています。

ロボット戦闘車 100年経っても試行錯誤中

 とはいえ、ロボット戦闘車の実現の目がついえたわけではありません。アメリカでは陸軍の、次世代の戦車や歩兵戦闘車を開発するプロジェクトにおいて、次世代戦闘車(NGCV)のいちアイテムとしてRCV(ロボット・コンバット・ビーグル)が開発されています。

アメリカ陸軍が公表しているロボット戦闘車の3つのカテゴリー。いずれもイメージ図しかない(画像:アメリカ陸軍資料を月刊PANZER編集部で加工)。

 RCVは、小型偵察用の軽量型(RCV-L)、120mm砲まで装備した戦車の代わりもできるような重量型(RCV-H)、その中間の中量型(RCV-M)の3タイプが想定されています。M2ブラッドレー歩兵戦闘車と交代するために開発中の、任意人員配置戦闘車(OMFV)とペアを組むことが前提で、RCV単独で任務に就くようなことは考えられていません。

 軽量型は軽武装の偵察用で10t未満ですが、重量型は重さ20tで戦車並みの120mm砲を搭載するとうたわれており、ほとんどロボット戦車です。作戦内容にあわせこの3タイプを組み合わせ、柔軟性を持たせることにしています。

 RCVはまだ試作車も姿を表していませんが、基礎となる遠隔操縦技術のソフトウェア研究は、既存の装甲車を改造してトライアルが進行中です。まずソフトウェアの完成が優先で、ハードウェア製作はソフトウェアの目途が着いてから取り掛かろうということのようです。

 ロボット戦闘車を語る上で忘れてはならないのが、誰が「引き金」を引く判断をするのかという事でしょう。

 AI(人工知能)がどんなに進歩しても、ロボットに引き金を引かせてはならないという見解は、各国一致しているようです。AIによって、対戦車ロケット弾を抱えたゲリラと荷物を運んでいるだけの民間人とを見分け、脅威度を判定することは可能になってきていますが、武器使用判断は単なる技術論ではなく倫理的な問題でもあります。

 アメリカのRCVは2020年、既存装甲車にRCVのソフトウェアを組み込んだテストベッドが、武器使用をともなうトライアルに臨みます。RCVを採用するか見極めるのは2023年の予定ですが、それまでに完成の域に達するのかは分かりません。

 ロボットにとってはやはり、空よりも地上の方がはるかに厳しい環境のようです。