【藤川理絵の水中ドローン最前線】vol.12 広和ROVやBoxfishの操縦体験も

洋上風力から水産養殖まで、水中ロボット活用のこれから

 初日の特別シンポジウムは、「水中ロボットを中心とした海洋産業の「今」と「未来」」と題して行われた。洋上風力発電における水中ロボットの活用や、世界的に需要が高まっている水産養殖におけるテクノロジーの実装、海のワイヤレス技術についてなど、産学官のさまざまな立場から講演があり、リアルとオンライン合わせて約100名以上が参加した。

 最初に登壇したのは、福島RTF副所長の秋本修氏。福島RTFの概要を説明したのち、現在を「水中ロボットによる海の産業革命の黎明期」ととらえていると言及して、今後の社会実装への期待を示した。

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 復興庁統括官の由良英雄氏は、「福島の復興、創生の実現に向けて」と題して基調講演を行い、用途開発につながる研究が求められているとしたうえで、「エネルギー開発、水産業における活用をどう図っていくかが重要である」と話した。続いて、南相馬のタカワ精密が登壇し、廃炉での活動を想定した水中ロボットの開発について講演を行った。「ラドほたるII」は、2日目のデモンストレーションにも登場した。

 シンポジウム前半を締めくくったのは、東洋建設 土木事業本部 洋上風力部部長の北畑貴史氏。「洋上風力発電における低コスト技術開発と水中ロボットの活用」というタイトルで講演を行った。北畑氏は、洋上風力発電に関する「サクションバケット基礎工法」という新しい技術について解説したのち、サクションポンプの切り離しや杭打設中の監視などにおける水中ロボットの活用についても言及。「そもそも洋上風力発電建設は外洋で、かつ昼夜を問わない連続作業を伴う。モニターによる目視管理をはじめ、水中ロボットなしには為し得ない」と話した。

洋上風力発電における水中ロボットの活用洋上風力発電における水中ロボットの活用

 そして、シンポジウム後半のトップバッターは、水産養殖テックをグローバルに展開するスタートアップ、ウミトロンのマネージャー浅野由佳理氏。「テクノロジーで実現する持続可能な水産養殖の実装を目指して」と題して、招待講演を行った。浅野氏は、世界的な人口増加に伴うタンパク需要の増加を背景とした養殖業の成長性や、天然資源を使った飼料の高騰など養殖業における課題について説明したのち、同社が手がけるソリューションを紹介した。具体的には、AIを使った自動給餌システムや、AIを活用した魚のサイズ測定システム、海洋環境モニタリングデータを提供するサービスについて。今後は、洋上風力と沖合養殖の適地選定などにも活用を進めたいと意欲を示した。

ウミトロンが手がけるAI自動給餌ウミトロンが手がける非接触型の魚体サイズ測定ウミトロンが手がける海洋環境データサービスウミトロン技術の全体像

 電子情報通信学会 通信ソサイエティUWT研の講演「海のワイヤレス技術」も注目を集めた。運営サイドで司会進行もつとめていたJAMSTECの吉田弘氏が講演者として登壇した。吉田氏は、海中での音、光、電波といった無線技術の利用用途を、造船や海上輸送、漁業という既存産業に止めるのではなく、世界的な成長産業である水産養殖業、まだ技術開発は必要だが製品価値が非常に大きい海底資源、橋梁、河川、堤防、水門、揚水・排水機場、ダムなど水回りのインフラと、大きな経済規模を見込める新たな市場にも目を向けるべきだと指摘した。その上で、電磁波を用いた水中通信機器が安価に提供される可能性や、用途に応じた機器の選定の必要性にも言及した。

電磁波を用いた水中通信機器の可能性音と光と電磁波の海中利用の比較音と光と電磁波の海中利用の比較

 “学”の立場からは、お二方が登壇。福島大学共生システム理工学類教授の高橋隆行氏は、「人支援ロボットの開発と人材育成」と題して講演を行った。これまで30年以上、知能ロボットコンテストを主催してきた経験から、ロボコンの教育効果についての持論を展開。「ロボットコンテストはあくまでも技術者としてのエントリーで、ロボコンに勝利したとて技術者として大成したというわけではない。大成功すると天狗になり、大失敗するとモチベーションがなくなる、教育者に求められるのは“さじ加減の妙”である」と説明して、「技術で遊ぶ、技術の無駄づかいは、教育効果が非常に高い」とメッセージを送った。

 また、長崎県産業労働部参事監と、長崎大学研究開発推進機構で機構長特別補佐を兼務する森田孝明氏は、「産・学・官の連携による海洋産業創出を目指して〜フィールド実証から社会実装に向けて〜」と題して講演を行い、2022年度より長崎大学工学部に海洋未来科学コースが新設されることも紹介した。