4月からの1年間、三重県は何にお金を使うのか。そのよりどころとなる2022年度当初予算案が14日、発表された。基本的な活動にあてる一般会計は総額8194億円。前年より4%増え、2年連続で過去最大になった。17日の県議会本会議に提案する。
目立つのはコロナ後を見据えた取り組みだ。「観光誘客の推進」や「カーボンニュートラル」といった分野で、大幅な予算の積み増しや新規事業が並んだ。
観光振興には前年の2倍の24億円をあてる。産業の再生をめざし、周遊キャンペーンなどで「拠点滞在型」観光を促すほか、訪日外国人客向け発信も強化する。新年度に実施予定の「県版GoToトラベル」なども含めると、総予算額は154億円になる。
脱炭素化の取り組みには前年の3・6倍の14億円を計上した。県施設の4分の1にあたる199施設で照明を消費電力の少ないLEDに交換するほか、県内企業の業態転換や新領域への挑戦も支援する。
危機管理や防災・減災関連の予算も518億円と4%増やす。多くは5カ年計画で進めるインフラ更新などが占めるが、デジタル機器を活用して業務の高度化を図り、情報収集用のドローンも5機導入する。
県民提案枠では、高齢者向けスマートフォン講座など9事業の4466万円を予算化した。直面するコロナ対策には前年より1%多い554億円を積んだ。病床確保や検査、ワクチン接種の支援などにあてる。
過去最大の予算は歳入の大幅な伸びが支えになる。原油高で四日市港での輸入価格が上がって地方消費税が大きく膨らむことなどから、県税は2653億円と前年より1割以上増える。リーマン・ショック前の07年度以来、過去2番目の水準だ。国が集めた税を地方に配る地方譲与税も4割強多い340億円を見込む。
一方、借金にあたる県債の発行は前年より3割少ない870億円に抑える。将来の返済にあてる「県債管理基金」には90億円を積み立てる。県債残高も4年ぶりに減少するが、依然、1兆4617億円が残る。
昨年9月に就任した一見勝之知事のもとで初編成された、三重県の2022年度当初予算案が公表された。一般会計の規模は8千億円を超えて過去最大。伸び幅は前年より4%増、金額では312億円多い。
「ふるさと三重前進予算」。会見で一見知事が呼んだ中身は人口減少対策や脱炭素化などで新機軸が目立つものの、奇をてらった中身ではない。県税収入や国からの交付金が増えた結果、市町などに配るお金が自然と膨らんだ、という構図もあるのだろう。
もっとも、県税収入の伸びの多くは原油高に伴う地方消費税収入増という「ボーナス」が占める。新たな借金は前年の7割に抑えたが、原油価格が下がれば増収分は一気にはげ落ちる。過去のツケも残るなか、求められるのは派手さよりも着実さと堅実さだろう。
県は予算編成にあわせ、今夏にもまとめる県政運営の中長期計画の概要案も明らかにした。コロナ禍で暮らしの価値観は変容し、自動車や石油化学といった県内の基幹産業は転換期を迎えている。限られた予算で持続可能な未来をどう実現していくか。バランス感覚と「身の丈」にあった経営はますます問われている。(山本知弘)
<新年度予算案には、こんな事業も>
●みえ観光の産業化推進(18億1639万円)
ポケモンを使った県内周遊促進や地域団体への支援
●ええとこやんか三重移住促進事業(3858万円)
若者と地域の接点づくり、「転職なき移住」PRなど●リニア中央新幹線の県内駅検討など(936万円)
駅候補地を調査・検討。県民向けシンポジウムも
●次世代技術による移動手段確保(2241万円)
高齢者らの移動手段確保に向けたモデル事業を実施
●県有施設の照明LED化(8億4490万円)
警察署や県立高校を含む計199施設で切り替え
●気候変動に適応する新養殖事業(1600万円)
真珠やカキで高水温化に対応した種苗や技術を開発
●伊勢茶を愛する県民運動(800万円)
伊勢茶を使った新商品やサービスの開発を支援
●県立大学の設置検討関連費(1736万円)
大学像や費用、効果などを調査。県民アンケートも
●ヤングケアラー支援(1681万円)
実態調査や対象者を関係機関につなぐ人材を配置
予算案と対応した組織見直しも発表された。
人口減少対策では全庁的な取り組みを統括する「人口減少対策課」と、市町との連携をはかる「移住促進課」の二つを新設する。観光分野の課も再編し、コンテンツの磨き上げを担う「観光資源課」と、誘客や事業者支援を担当する「観光誘客推進課」を置く。
国体・全国障害者スポーツ大会局は、スポーツ推進局に改組し、体制は114人から29人に減らす。
新年度当初予算案と一体編成する21年度2月補正予算案も発表された。一般会計に148億円を計上し、補正後の21年度予算額は9349億円になる。
補正額の8割は国の施策を使う「県版GoToトラベル」事業の118億円が占める。旅行割引や地域共通クーポンの発行を通じて、県内の観光関連事業者を支援する。足元の感染状況の影響で、全額を新年度に繰り越す見通し。
三重県立高校の入学願書が、来春の入学生からウェブ出願方式に切り替わる。県教育委員会が新年度予算案に関連経費1805万円を盛り込んだ。福井県に次ぎ、公立では全国2番目の取り組みだという。
国のGIGA(ギガ)スクール構想で「1人1台」配られた情報端末も活用し、紙からデジタルに全面転換する。教員が書く調査書も電子化し、県のサイト上で生徒の願書とひもづける。これまでは中学の教員が生徒から願書を預かり、志望校に直接届けるか、もしくは送付していた。
生徒は願書を書き損じても、一から書き直す必要がなくなる。高校側は氏名や住所を1人ずつ紙の願書から拾って手入力する手間がなくなり、確認作業の省力化が見込めるという。
警察費には386億円(前年度比0・5%増)が計上された。特に交通安全施設の整備には過去10年で最高となる18億6千万円あまりをあて、前年の約10倍にあたる600の信号機をLED式に切り替える。見えにくくなった約3千本の横断歩道も塗り替える。
県警の今春の組織改編では警務部に警視級の「コンプライアンス推進監」を新設する。21年に6人の警察官が懲戒処分を受けるなど、不祥事が相次いだことが理由。職員への指導や人材育成に取り組む。