観光分野を学んだ人が業界で活躍し続けるための専門職短期大学より本物に近いインターンシップでミスマッチを回避
せとうち観光専門職短期大学は今年4月に開学したばかりの大学だ。観光専門教育を掲げる大学にとってコロナ禍中の開学は良いタイミングとは言えないが、この先観光産業が活気を取り戻していくことは間違いない。この産業にいま求められる人材像とは、そしてこれから鍛えるべき能力とは何か。日本航空出身で、現在は同学で学長を務める青木義英氏に答えていただいた。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)
青木氏
-まずは自己紹介からお願いいたします。
青木義英氏(以下敬称略) 1948年、東京生まれです。1972年に大卒で日本航空に入社し、空港部門を担当した後に総務部や労務部を経てマドリード支店長になりました。マドリードには国連世界観光機関(UNWTO)があったこともあり、さまざまな方々との交流を深めました。ちょうどその頃、国立大学としては初めて和歌山大学に観光学部が新設されることになりました。交流していた人物の1人から、この和歌山大学で観光産業の実業経験のある教員を探しているからやってみないかと誘われ、2012年に客員教授となり教壇に立つことに。その後、せとうち観光専門職短期大学が2021年4月に開学すると同時に学長に就任しました。
-そもそも専門職短期大学とはどういう存在なのか、また、貴学の特徴についてもご説明ください。
青木 専門職短期大学は学校教育法の改正で誕生した新しい学校制度で、理論と実践の両面をバランス良く学べる場を提供するのが役割です。本学は日本初の観光分野の専門職短期大学として開学しました。開学に至るまでには困難もありました。とくに観光が専門職に該当すると文科省に納得してもらうまでが大変でした。医学部卒業生は医者になります。しかし観光学部卒業生は観光の専門家になっていくのか。なぜ専門職として必要なのか。それを説明しなければなりませんでした。
そこで大学の例も引き合いに出して説明しました。4年制大学の観光学部卒業生のうち観光分野に就職するのは20%から25%。なおかつ、その半分が5年以内に転職してしまうのが実態です。原因は学生が観光の実務を知らずに観光分野に就職してしまうことです。本来は観光分野について学んだ者が、必ず観光分野で活躍するようであってほしい。そのためには観光の専門職短期大学という実践を踏まえた教育の場が必要なのだと説明しました。
本学が特色として掲げるのは「卒業したら観光分野でエキスパートになれる人材を育成する」ことです。逆に言えば、観光関連の学部を持つ大学が、必ずしも人材を輩出できていないのが現実です。だからこそ、我々が中核になってエキスパート人材を輩出していきたいと考えるわけです。
-どういったエキスパートを育てていくのでしょうか。
青木 柱は3つあります。まず観光には移動が付き物ですから、鉄道や航空会社、バス、フェリーなどの移動分野で活躍できるエキスパートを育成します。また旅行先では宿泊しますから、ホテルや旅館といった宿泊事業で活躍できるエキスパートも柱の1つです。そして、一番重要だと考えているのが、観光資源を発見・発掘し、それを地域創生につなげていく力を持ったエキスパートです。
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