陸地を走行する自動運転車に負けず劣らず、空の移動に変革をもたらすエアモビリティ「空飛ぶクルマ」の実用化に向けた動きも活発だ。2021年には、先を見越した大型受注案件や株式公開を果たす動きも出ており、本格的な市場化を前に各社のビジネス戦略が花を咲かせている。
2021年の空飛ぶクルマ関連の10大ニュースを振り返っていこう。
記事の目次
経済産業省の2021年度予算案で、「次世代電動航空機に関する技術開発事業」が前年度比で約1.5倍増額された。
同事業はエネルギー需給構造高度化対策の一環で、モーターやバッテリー技術などの進化によってCO2排出削減を目指すもの。2019年度からの5カ年事業で、2020年度の約13億5,000万円から2021年度は19億円に増額された。
2022年度概算要求においても27億2,000万円とさらに上積みされており、航空機電動化に関するコア技術や電気推進システム技術などを開発し、2030年以降に市場投入予定の次世代航空機に必要な技術を世界に先駆けて実証するとしている。
なお、経産省は2022年度に向け、新たに「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」として38億円を要求している。今後5年間で技術開発・実証を通じてドローンのさらなる利活用拡大を図り、また大阪・関西万博での空飛ぶクルマの活用と事業化に向け、性能評価基準の開発や運航管理技術の開発などを進めていく方針だ。
【参考】詳しくは「空飛ぶクルマなど次世代電動航空機の技術開発、経産省が予算増額」を参照。
米Joby Aviationがニューヨーク証券取引所にSPAC上場する計画を発表した。2021年8月に無事上場を果たしている。
米国の空飛ぶクルマ開発関連企業では、配車サービス大手のUberが2019年5月に上場を果たしているが、同社の開発部門は2020年12月にJobyへの買収が発表されており、実質的にJobyが米企業として最初の上場企業となった形だ。
JobyはeVTOL開発・生産においてトヨタと提携しているほか、空の移動革命に向けた官民協議会の新規構成員に名を連ねるなど、日本との関わりも深まっている。
2024年のエアタクシーサービス開始を目標に、今後どのような事業展開を進めていくか要注目だ。
【参考】詳しくは「「空飛ぶクルマ」開発の米Joby Aviationが上場へ トヨタも出資」を参照。
ドローンや空飛ぶクルマといった次世代航空モビリティに関わる事務を一元的に担う専門部署「次世代航空モビリティ企画室」を国土交通省が設置した。22人が専従し、次世代モビリティに係る安全基準の検討や無人航空機の登録制度の導入準備・運用、関連システムの整備・運用などを進めていく。
民間で開発や実証が進む次世代モビリティは、従来のルールや法律の枠に収まりきらない、ある意味未知の領域と言える。実現に向けては、既成概念に捉われず新たな航空ルールやインフラを一から構築していく気概が必要だ。
こうした環境整備を担う国と民間が両翼となることで早期実現が可能になる。民間はもちろん、国の取り組みにも大きな期待が寄せられるところだ。
【参考】詳しくは「国交省に「次世代航空モビリティ企画室」新設!空飛ぶクルマに本腰」を参照。
中国の市場調査会社ResearchInChinaが、開発各社の資金調達額などを網羅したレポート「世界および中国のフライングカー業界(2020年~2026年)」を発行した。
レポートによると、米Joby Aviationが資金調達額8億2,000万ドル(約897億円)で1位となり、独Volocopterが3億8,100万ドル(約417億円)、 独Liliumが3億7,500万ドル(約410億円)と続いているようだ。日本のSkyDriveも、5,380万ドル(約59億円)で5位にランクインしている。
空飛ぶクルマという新たなモビリティ開発によるイノベーションと、将来のビジネス性を見越した高い期待の表れと言える。
各社の資金調達は今後ますます加速するものと思われ、Joby Aviationの用に上場を果たす企業も続発する可能性が高い。国内企業をはじめ、各社の動向に要注目だ。
【参考】詳しくは「米Joby Aviationが1位!空飛ぶクルマ業界、資金調達ランキング」を参照。
調査会社のReport Oceanが発行した「空飛ぶ自動車の市場規模 – 業界動向・予測レポート 2035年」によると、2021年から2035年までの空飛ぶクルマ市場のCAGR(年平均成長率)は47.23%に上るという。
一方、ポルシェコンサルティングは、2035年におけるパッセンジャードローンは機体数2万3,000機、世界市場規模は320億ドル(約3.5兆円)に達すると推計するなど、空飛ぶクルマ市場が今後右肩上がりの急成長を続ける見通しをそれぞれ発表している。
地形にとらわれない自由な移動を可能にするエアモビリティは、陸地を走行する自動運転車に比べ細やかな移動には適さないものの、地点間の大まかな移動を可能にする。また、大まかな大量輸送を可能にする鉄道と比べると、輸送人員が限定的であるもののフレキシブルな短中距離移動を可能にする。
地上のモビリティと住み分けし、かつ連携・連動しながらエアモビリティも大きく成長していくことはほぼ間違いなさそうだ。
【参考】詳しくは「空飛ぶクルマ市場のCAGR、2021~35年は47%!急拡大の要因は?」を参照。
住友商事が空飛ぶクルマ実現に向けた取り組みを加速している。無人機管制システム開発を手掛ける米OneSky Systemsと東北大学とともに、量子コンピューティングを活用したリアルタイム三次元交通制御に関する実証実験に着手した。
多数のエアモビリティが飛び交う未来を想定した実証で、さまざまなスペックのエアモビリティに対し、リアルタイムで最適航路や運航ダイヤを管制するシステムの実現に向け、都市部でのエアモビリティ航行を想定した高精度軌道シミュレーションなどを行う。
住友商事は量子コンピューターの実業に向け東北大学と2021年3月に共同研究契約を締結している。OneSky Systemsには2020年4月に出資したことを発表している。
また、2019年4月にエアモビリティ分野における新規事業の創出などを目的に米Bell Helicopter Textronと業務提携を交わしたほか、2020年2月には日本航空及びBellとともに、日本をはじめとしたアジアにおける市場調査や事業参画などの共同研究推進に関する業務提携を交わすなど、同分野に力を注いでいる印象だ。
商社として、空飛ぶクルマの多角的なビジネスモデル構築に向けたフィクサーの役割をなす同社の今後の活躍に期待したい。
【参考】詳しくは「量子技術で「空飛ぶクルマ」を制御!住友商事、東北大学やOneSkyと実証開始」を参照。
東京大学発スタートアップのテトラ・アビエーションが、開発を進める新機種「Mk-5(マークファイブ)」の予約販売を開始した。個人向けに40機ほど予約を獲得し、予約から1年後の受け渡しを目指している。早ければ、2022年末にも受け渡しが始まる予定だ。
Mk-5は1人乗りモデルで、価格は約4,000万円。モデルによるが、巡航速度は最大時速144~160キロで、151~160キロメートル飛行することができる。
米国内で飛行試験などを行うための認証も取得済みで、米国連邦航空局から特別耐空証明証と飛行許可証を得ている。日本と米国は、相手国が行う安全性に係る検査・認証などを相互に受け入れる「航空の安全に関する相互承認協定(BASA)」を結んでいるため、日本でも都度国土交通大臣の許可を得ることで試験飛行を行うことができる。
米国内で実施した最新の飛行試験の様子は、YouTubeでも公開されている。日本発のeVTOLは、すでに国境を飛び越えているのだ。
【参考】詳しくは「約4,000万円!東大発テトラ、空飛ぶクルマの予約販売をいよいよ開始」を参照。
海外では空飛ぶクルマの実現がすでに現実味を帯び始めているようだ。数年先を見越した機体の大型受発注案件が相次いでいるのだ。
記事によると、独Liliumは220機、米Archer Aviationは最大200機、英Vertical Aerospaceは航空各社から最大計1,000機、米Skyworks Aeronauticsは100機、ブラジルの航空機メーカーEmbraer傘下のEveは200機など、数年後までに受け渡す契約をそれぞれ締結している。
また、中国のEHangに至ってはすでに100機以上を販売済みで、世界各地の実証などで使用されているようだ。
陸地を走行する自動運転車同様実証が盛んに行われており、一部は実用化段階に達し始めている状況だ。空の飛行と陸地の走行を両立するモデルの開発を進めている企業もある。移動におけるイノベーションはとどまるところを知らず、今後数年のうちにターニングポイントを迎えそうだ。
【参考】詳しくは「空飛ぶクルマ・eVTOL、欧米で100機以上の大量受注続々!」を参照。
大阪府及び大阪市が、空飛ぶクルマの実現に向けSkyDriveと連携協定を締結した。空飛ぶクルマの社会実装に向け、地方自治体も本腰を入れ始めている。
協定では、主に①空飛ぶクルマの社会実装及びビジネス化に向けた実証実験に関すること②空飛ぶクルマの社会受容性の向上など環境整備に関すること③大阪のスタートアップ・エコシステムの活性化に関すること――について協力・連携を深めていく。
大阪府は2020年に「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」を設置し、官民協働で空飛ぶクルマ実現に向けた取り組みを本格化している。2025年開催予定の大阪・関西万博を一つの目標に掲げ、離着陸場利活用に向けた可能性調査やエアタクシーの事業性調査、自動管制実証、エアモビリティの総合運航管理プラットフォームなどの事業を進めている。
空飛ぶクルマ実現には、機体開発のみならず運行や管制体制の構築、インフラ整備、ビジネスモデルの構築、社会受容性の醸成など、さまざまな課題抽出や解決を図っていく必要がある。
民間だけではなし得ず、国や地方自治体の積極的な協力が不可欠であり、こうした大阪府・市の取り組みは非常に心強いものと言える。
【参考】詳しくは「大阪の吉村知事「1日も早く」!空飛ぶクルマ実現へ、SkyDriveとタッグ」を参照。
SkyDriveが、開発を進める空飛ぶクルマの型式証明申請を行ったと発表した。空飛ぶクルマとしては国内初の申請事例だ。
型式証明は、航空機の型式ごとに安全基準や環境基準を満たしているかを審査・証明する制度。自動車で言うところの「型式指定」のようなもので、開発中の機体の設計や構造などが所要の基準を満たしていることを証明することで、量産した際の一部検査を省くことが可能になる。
飛行させるには、これとは別に耐空証明を受け続けなければならないが、型式指定はこの耐空証明取得に向けた第一歩と言える。
同社は2025年に大阪ベイエリアでのサービス開始を目標に開発を進めており、すでに有人試験機によるデモフライトなども成功させている。
こうしたSkyDriveの取り組みに他社も続き、業界を通じて開発がいっそう加速することに期待したい。
【参考】詳しくは「「空飛ぶクルマ」の型式証明、申請・審査の流れは?SkyDriveが申請第1号に」を参照。
10年前には遠い将来の技術に思えた空飛ぶクルマも、もはや実用域に達し始めている。10年後には、世界各地で市民権を得たモビリティとなっている可能性も十分考えられそうだ。
国内では、2025年開催予定の大阪・関西万博がターニングポイントとなっており、この目標に向けますます取り組みが加速していくことは間違いない。2022年の動向にも要注目だ。