株式会社SkyDrive(東京)の貨物輸送ドローンが10月22日、大阪港の中央突堤で海上を自動飛行した。大阪湾に接した中央突堤で離陸した機体は、上空で方向を変え大阪湾の洋上を数分間、安定した飛行を披露した。飛行は空飛ぶクルマの社会受容性を高める方法を探るための実証実験で、実験の様子は、抽選で選ばれた地域在住の市民、地元に拠点を構える企業関係者らを含め、約150人が見学した。着陸後には見学者が間近で機体を眺めたり、関係者に積極的に質問をしたりしており関心の高まりをうかがわせた。また会場に近いレジャー施設「天保山マーケットプレース」(大阪市)には、空飛ぶクルマ「SD-03」のモデル機が展示され、来場者が写真に収めるなど人垣を作った。実検は23日も行われ、収集したデータを分析する。
実験は株式会社SkyDrive(東京)、株式会社大林組(東京)、関西電力株式会社(大阪市)、近鉄グループホールディングス株式会社(大阪市)、東京海上日動火災保険株式会社(東京)が実施した。5社は大阪での「空飛ぶクルマのエアタクシー事業」の実装に向けて、「空飛ぶクルマによるエアタクシー事業性調査」(以下、本事業)を実施することで連携している。連携事業は大阪府の補助金事業に採択されている。
実験では、大阪湾に接する中央突堤のオープンスペースで行われた。実検に使われた物流ドローンはすでに各地で運搬実験に使われている実績を持つ。この日は会場に準備された離発着場から10メートルほど離れた場所に、制御用パソコンなどを設置するコントロールステーションが設置された。22日午前の飛行時にはほぼ晴天なうえ、地上での風速が1~2メートルと穏やかだった。自動で離陸した機体は、対地で20メートル上空まで上昇し、方向を変え沖合50メートルの湾内の洋上に進み、移動し続けたのち、離発着点に戻った。約5分間のフライトだった。飛行中には対岸にそびえるガントリークレーンを背景に飛ぶシーンも見られ、集まった実験関係者やメディア関係者がカメラを構えた。
着陸後には、SkyDriveの福澤知浩CEOが関係者を機体の間近に招き、機体や、「空飛ぶクルマ」の開発状況、課題、対応策などについて説明したり、質問に回答したりする時間が設けられ、活発な質疑応答が行われた。この中で「ドローンを知ってはいたが間近に見て関心が高まった」「飛ぶのを見たが人が乗る様子をまだ想像できない」などの意見が寄せられた。
実験は、技術実証と一般市民の感想などフィードバックの収集が目的で行われた。特に市民の感想を収集するため、地元在住者から見学者を募るなどの準備を進めた。公募から選ばれた市民は、見学後にアンケートに回答する。地域住民は22日、23日の2日間で100人となり、集まったアンケートは社会受容性の向上に役立てる。
実験は、大阪府、大阪市、大阪商工会議所で構成する「実証事業推進チーム大阪」が、実験環境整備の支援を受けて行われた。チーム大阪は、実験会場の確保、海上管理者との調整、資金支援などを通じて大阪で行われる実験を支援している。この日の実験も会場調整などで支援しており、チーム大阪の一員として会場を訪れていた大阪商工会議所の吉村保範産業部長は「実証事業都市大阪をつくりあたげたい」と話した。吉村氏によると、実験は多くの人々にとって未知なため警戒され、会場確保が難航することもあるという。それでも「大阪・関西万博の開催決定をきっかけにドローンへの認知度は高まりつつある。実験会場の確保が以前ほど難しくないことも増えたが、それでも管理者にはていねいに実験の趣旨を説明し、理解を求める作業をしたい」と話している。
また飛行実験とは別に、中央突堤から徒歩10分の場所にあるレジャー施設「天保山マーケットプレース」には、空飛ぶクルマ「SD-03」のモデル機が展示された。飛行実験を主催した5社の関係者は、午前の飛行実験後に展示会場を訪れ、メディアの取材に応じた。展示された機体は注目度が高く、多くの来場者が写真に収めていた。
5人の主な発言は以下の通り。
SkyDriveの福澤知浩CEO「2025年の万博で空飛ぶクルマを飛ばすことを目指して開発を進めていますが、飛ばす場所や、エリア構築、バッテリーなど広範な課題感を持っています。今回も技術実証と人々が抱く心象を対象に実験をしました。これをさらに実現に生かしたいと思っています」
東京海上日動火災保険航空保険部長・宇井秀夫氏「市民に実験前、実験後のアンケートを実施している。分析して受容性を高めるための手立てを研究、検討していきます」
大林組技術本部未来技術創造部長・久保田孝幸氏「空飛ぶクルマは社会生活を変えると考えています。そうなったときには建物も、インフラも変わる必要があると思います。では、どう変わればいいのか。空飛ぶクルマ時代のインフラのありかたとは何か。それを考えたいと思っています。ポートが身近にできたときに人々がそれをどう感じるか、といったことについても調べたいと考えています」
関西電力株式会社理事ソリューション本部副本部長・奥戸義昌氏「関電は中期経営計画の中でゼロカーボンへの挑戦を打ち出しています。発電だけでなく、モビリティ分野でも貢献できないかと考えていて、電気自動車、電動推進船に加え空のモビリティでも、電気のノウハウで貢献したい。今回の実験データも、開発中のバッテリーの消費や、最適な充電方法などの分析に生かしたいと思っています」
近鉄グループホールディングス株式会社事業戦略部長・濵松勇治氏「空飛ぶクルマの機体がたくさんできるには、離発着場となるポートがたくさんできていないと、身近な乗り物にならないだろうという問題意識を持っています。そこで交通事業者、不動産事業者としてポートのありかたを模索し、空飛ぶクルマ社会の実現に貢献したいと考えています。実検会場であるここ、天保山から対岸の万博会場である夢洲まで空飛ぶクルマをぜひ飛ばしてみたい。より身近、より便利な乗り物として生活を豊かにする社会を実現させたいと考えています」
なお実験後、DroneTribuneの取材に対し、SkyDriveの福澤CEOは「感覚的には空飛ぶクルマの認知度はまだまだ低いです。機体を展示すると来場者の反応は初めてみた、初めて知った、という方が9割、といた感じです。空飛ぶクルマを実現させるためには、人々の理解が欠かせません。機体開発など実現おためにしなければいけないことはいろいろありますが、理解をして頂くために何をしたらよいのかについても、探っていきたいと思っています」と話した。
村山 繁DroneTribune代表兼編集長。2016年8月に産経新聞社が運営するDroneTimesの副編集長を務め、取材、執筆、編集のほか、イベントの企画、講演、司会、オーガナイザーなどを手掛ける。産経新聞がDroneTimesを休止した2019年4月末の翌日である2019年5月1日(「令和」の初日)にドローン専門の新たな情報配信サイトDroneTribuneを創刊し代表兼編集長に就任した。現在、媒体運営、取材、執筆、編集を手掛けながら、企画提案、活字コミュニケーションコンサルティングなども請け負う。慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム研究所員、あおもりドローン利活用推進会議顧問など兼務。元産経新聞社副編集長。青森県弘前市生まれ、埼玉県育ち。
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