国内 海上監視どう変わる? 無人機の試験に50億円計上する海自の思惑 引退進む哨戒機

海上保安庁に続き、海上自衛隊でもUAV(無人航空機)の試験運用が行われる見込みです。洋上監視能力の強化が目的と考えられますが、同時に海上自衛隊が抱える複数の課題の解決にもつなげられるのでしょうか。

海自 UAV試験に50億円計上 海保は「導入」へ

 防衛省は2021年8月31日(火)に発表した令和4(2022)年度予算の概算要求において、海上自衛隊が滞空型UAV(無人航空機)の試験的運用を行うための経費として、約50億円を計上しました。また海上保安庁は、海上自衛隊に先駆けて洋上監視用UAVの導入に乗り出しており、令和4年度概算要求にUAV 1機の導入経費として34億8000万円を盛り込んでいます。

 海上保安庁はUAVの導入を決定するにあたって有用性を確認するため、2020年10月から11月にかけて、アメリカのジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズが開発・生産するUAV「シーガーディアン」の実証試験を行いました。このとき海上自衛隊は試験場所として青森県の八戸航空基地を提供しています。

 試験で得たデータはおそらく海上自衛隊にも提供されており、海上自衛隊はそのデータを基にUAVが自分たちにも有用だと判断して、令和4年度予算の概算要求に試験運用の経費を盛り込んだものと考えられます。

 防衛省は、2018年12月に発表した「中期防衛力整備計画」のなかで、太平洋側の広域洋上監視能力を強化するための滞空型無人機を「検討の上、必要な措置を講ずる」と明記していました。これは、日本の安全保障の基本的指針である「防衛計画の大綱(防衛大綱)」で決めた方針を実現するため、2019年度から2023年度の5か年度の間に、どのような防衛装備品を導入し、どのような政策を実行していくかを定めたものであり、すでに2018年の時点で滞空型UAVの導入を考慮していたということです。

国内 海上監視どう変わる? 無人機の試験に50億円計上する海自の思惑 引退進む哨戒機

 ここへきて、いよいよ海上自衛隊が滞空型UAVの試験に乗り出す背景には、海上自衛隊が抱える複数の課題があります。UAVの導入で何が変わるのでしょうか。

引退進む哨戒機を補う存在に?

 太平洋戦争で連合国の潜水艦に多数の商船を撃沈され、資源が枯渇したことが敗戦の一因となったことから、海上自衛隊は創設以来、対潜水艦戦能力を重視し、その一環として空から潜水艦を捜索して対処する「哨戒機」戦力の整備に力を注いできました。

 2020年3月末の時点で、海上自衛隊はP-3C哨戒機50機、P-1哨戒機24機、合計74機の哨戒機を保有しています。74機という保有数はアメリカ海軍(132機)には及びませんが、世界の海軍のなかで2番目に多く、一見する限り盤石にも思えます。

 ただ、1981(昭和56)年から1997(平成9)年にかけて導入されたP-3Cは老朽化により急速に退役が進んでおり、2016(平成28)年から2020年までの5年間で18機が退役しています。

 これと同時に、日本における少子化の影響も影を落とします。P-3CとP-1はパイロットに加えて、哨戒飛行パターンの作成や潜水艦を捜索する「ソノブイ」をどこに敷設するかといった戦術的な判断を下す戦術航空士、潜水艦を捜索するソナーの操作や、目視による洋上監視を行うソナー員など、10名から11名の搭乗員を必要とします。少子化が進む日本では、仮にP-1をP-3C(101機)と同程度調達する予算が確保できたとしても、搭乗員の確保が困難になることも予想されるのです。

無人機=省人化 必ずしもそうじゃない? 考えられる導入機種の候補は

 UAVを導入しても、そこまでの省人化は期待できないとの声も聞かれます。戦術航空士やソナー員などは必要ないとしても、操縦士については有人機と比べ少人数で済むものの必須であり、整備などにあたる地上の支援要員に関しては有人機と同様に必要となるためです。

 しかし、陸上自衛隊が採用した「スキャンイーグル」や、前述した海上保安庁が導入する予定の「シーガーディアン」の原型である「ガーディアン」は、アメリカ軍やインド軍などでは運用や整備をメーカーが担当し、軍は飛行時間や収集したデータの量に応じた金額を支払うといった運用方法も採られています。防衛省にはこのような契約をした前例がなく、またそうした運用を検討しているのかも定かではありませんが、この方法ならば省人化は可能であると考えられます。

 海上自衛隊が令和4年度に計画しているUAVの試験運用では、長時間の広域滞空監視や有人機との連携が検証される予定です。有人哨戒機と連携するUAVとしては、アメリカ海軍においてP-8A「ポセイドン」哨戒機と連携するMQ-4C「トライトン」が実用化されています。

 しかしMQ-4C「トライトン」は対潜作戦での使用を想定しておらず、また価格も高いことから、おそらく海上自衛隊は違う機種を想定していると推察されます。

 筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)としては、海上自衛隊が検討するのは、おそらく潜水艦を探知する「ソノブイ」のランチャー(投下装置)などを搭載する計画と哨戒機との連携構想があり、かつMQ-4C「トライトン」に比べれば価格も安い「シーガーディアン」や、イスラエルのエルビット・システムズが開発した「ヘルメス900マリタイム」といった、「MALE」(中高度長時間滞空)に分類される機種ではないかと考えています。