説明会の冒頭では、本田技研工業 ライフクリエーション事業本部 本部長 加藤稔氏によるあいさつが行なわれた。
加藤氏は「電力を小分けにすることで、小型モビリディを含むさまざまな機器の電動化と、再生可能エネルギーの活用拡大に貢献することを目指して開発した着脱式可搬バッテリのホンダモバイルパワーパックは、2018年に電動2輪車で採用されるとともに、さまざまな実証実験などを通じてその有効性を確認してきました。そしていよいよ本日、第2世代とも言えるホンダモバイルパワーパック e:を発売いたします」と、着脱式可搬バッテリを開発した理由などについて説明。
「まずは電動2輪車を保有する法人さまへのリース販売となりますが、来年からはモバイルパワーパック搭載機器を開発するさまざまな企業さまへの供給を順次開始する予定です。また、このあとにご紹介いたしますが、インドでのバッテリシェアリング事業も来年開始いたします。モバイルパワーパックはさまざまな用途に活用可能なバッテリであり、今後、除雪機や船外機といったホンダのパワープロダクツ製品にも搭載していきたいと考えております」と語り、今後の展開予定について紹介した。
モバイルパワーパックは2018年に登場し、3年間に行なわれてきた実証実験などで得られたデータを反映して第2世代であるモバイルパワーパック e:に進化を遂げた“電力を小分けにする”モバイルパワーパックによって移動や暮らしの可能性を広げていく本田技研工業株式会社 ライフクリエーション事業本部 新事業推進部 シニアチーフエンジニア 中島芳浩氏続いて、本田技研工業 ライフクリエーション事業本部 新事業推進部 シニアチーフエンジニア 中島芳浩氏から、車両の電動化を取り巻く環境やホンダがこれまでに行なってきたモバイルパワーパックの取り組み、今後の事業展開などについて説明された。
中島氏は世界情勢の潮流として、2015年9月に国連で「SDGs」(持続可能な開発目標)に向けた目標が採択され、まもなく「COP26」(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)も開催されるなど、気候変動やCO2削減は自動車メーカーにとって非常に重要な課題になっていると説明。カーボンニュートラルの実現に向け、車両の電動化では「再生可能エネルギーの利用」「電力需要が旺盛な新興国での展開」を中心に考える必要があるとした。
再生可能エネルギーの供給予測は投資額の増加という要因もあって上方修正が続いており、変動しやすいという最大の弱点を蓄電池との組み合わせで補うことができれば、潤沢な再生可能エネルギーの供給をカーボンニュートラルの実現に直結させられるとの考えを示した。
また、新興国では温暖化や大気汚染への対策という以外にも、自国の産業振興、石油などの輸入削減によるエネルギー安全保障という視点から再生可能エネルギーに取り組む政策的な目的もあり、車両の電動化に積極的な国が多いと解説。新興国における展開では、現地の交通事情や政策などに合致した取り組みが重要だとした。
2015年9月に国連で採択された「SDGs」に続き、まもなく開催される「COP26」がターニングポイントになるだろうと中島氏再生可能エネルギーの供給予測は上方修正が続いている車両の電動化は、新興国では「エネルギー安全保障」「自国の産業振興」といった狙いも取り組みの背景となるこうした背景から、ホンダでは2輪やパワープロダクツといった製品でクリーンエネルギーを活用してもらうため、着脱式で持ち運べるモバイルパワーパックをさまざまな用途で共通利用するビジョンを策定。再生可能エネルギーとして発電された電力を、モバイルパワーパックによって2輪車や小型のコミューターの電動化に利用するアイデアが生み出されたものの、そのままでは充電時間や航続距離、コストといった面が課題となるため、さらにモバイルパワーパックの交換機、モバイルパワーパックの管理システムを開発してバッテリシェアリングサービスの実現を目指すことになった。
バッテリシェアリングサービスの利用イメージでは、走行で電力を消費したら都市の各所に設定された交換ステーションに立ち寄り、電力が減ったモバイルパワーパックをライダーやドライバーが自分で充電済みのものと交換するスタイルを想定。これにより、ユーザーはバッテリの充電を待つ時間が不要になり、交換し続けることで“電欠”を恐れることなく走り続けられるようになって、既存のエンジン搭載車と比較した場合のデメリットを払拭できるという。
モバイルパワーパックを中心とした再生可能エネルギーの利用ビジョン電動モビリティが持つ「長い充電時間」「短い航続距離」「高いコスト」という3つの課題バッテリシェアリングサービスのコンセプト図残量の減ったバッテリを充電済みのものと交換することで、充電の待ち時間を解消1セットでの航続距離が短くても、手軽に交換できれば遠くまで移動できるようになるそんなイメージを現実のものとするべく、ホンダではフィリピン、インドネシア、インドの3か国で実証事業を展開。環境省の補助事業となったフィリピンでの実証実験では、1周が50kmに満たないというロンブロン島を舞台として、駒井ハルテックの風力発電システムと電動2輪100台を組み合わせて実施。NEDOの助成事業となったインドネシアではパナソニックと協力して、バンドン市、デンパサール市などで電動2輪、超小型モビリティ300台規模の実証実験を行なったことに加え、タングシジャヤという山村で小水力発電と可搬式電源のマッチング実験も合わせて実施しているという。
インドではトルクモータース製の電動3輪車を使ってムンバイ郊外にあるターネー市で4か月に渡って実証を行ない、実際の様子を動画で紹介。実証実験では30台の電動3輪車が対象となり、トータルで20万kmを走行している。
3か国で2輪、3輪の電動車で延べ100km以上を走行して、バッテリパックの性能や耐久性、交換機のユーザビリティ、管理システムの信頼性といった技術的側面を確認し、さらに交換機の配置やサービスの利便性、経済性といった事業面でもさまざまな知見を得たという。また、実際に運営するなかで、電動車の充電による走行距離の制約をなくしたことにより、ユーザーにストレスなく生活や仕事を続けてもらえたことは大きな収穫だったと中島氏は語った。
インド・ターネー市で行なわれた実証実験の様子(1分30秒)フィリピンで行なわれた実証実験の概要インドネシアで行なわれた実証実験の概要インドで行なわれた実証実験の概要実証事業で得た成果を反映するものとして、まずはモバイルパワーパック e:について解説。第1世代のモバイルパワーパックと比較して25%大容量化しており、これは内部に円筒型電池セルがノートPCなどでも広く利用されている規格品を使っていることが大きな理由。2018年からの技術進歩が性能向上につながっていて、これからもさらなる進化が期待できる部分だとした。
この結果、モバイルパワーパックでは外形を変えることなく互換性を保ったまま進化を享受でき、次々と上位互換を目指せる製品となっている。実際に第2世代となるモバイルパワーパック e:を既存の電動2輪車に使った場合、車両はそのままでも航続距離が約1.2倍に向上するという。
2つ目となる成果物は、2022年の市場投入に向けて開発を進めているという「Mobile Power Pack Exchanger e:」で、実証実験で知見をフルに投入して設計を行ない、ユーザーの使い勝手を高めたほか、冷却性能などを大きく高めている。
3つ目は、世界最大の3輪市場であるインドで電動3輪車向けのバッテリシェアリングサービスを2022年からスタート。インドで製造されるモバイルパワーパック e:やMobile Power Pack Exchanger e:に加え、ホンダが自社開発しているクラウドシステムを利用する予定になっている。
最後に中島氏は「モバイルパワーパック事業は、バッテリの共通利用という理念に賛同していただけるパートナーと築いていく、先の長い、幅の広い事業です」と説明してプレゼンテーションを締めくくった。
モバイルパワーパックの第1世代と第2世代の性能比較。容量は25%増えているが、重量は600g軽量化されている幅広く利用されている規格サイズの円筒型電池セルを使っており、今後も性能が向上していくことを期待できる「Mobile Power Pack Exchanger e:」も実証実験で得た知見で改良を進め、2022年に市場投入する予定インドで日常的に利用されている3輪車の電動化を推し進めることで、カーボンニュートラルの実現に向けた動きを加速させるインドにおけるバッテリシェアリングサービスの利用イメージ(1分4秒)