デザインが変われば、音楽との付き合い方も変わる。
摩訶不思議なかたちのイヤホン「LinkBuds(WF-L900)」が、2022年2月25日にソニーからデビューしました。ソニーストアでの価格は2万3100円。
このイヤホンのコンセプトは、聴きながら聞けること。耳をふさがない形状になっているので、音楽も外音も同時に聞こえるのです。「それってちゃんと音楽聞けるの?」って思いません? でもね、これが聞こえるの。それも良い音で!
「LinkBuds」でもっとも特徴的なのは、ソニー独自のリング型ドライバーユニット。穴の開いてる部分を耳の奥に押し込んでリスニングするのですが、ここには12mmのドライバーユニットが入っています。プロセッサーには名機「WF-1000XM4」と同じV1を採用。
米Gizmodoのレビュー記事では小さなイヤホンで大きな音と評されていましたが、まさにその通り。「LinkBuds」はソニーのワイヤレス史上もっとも小さく軽いイヤホンなんです。でも、出音は決して小さくない。
高音は粒立ちが良く、いわゆるチープなシャカシャカ音のような鳴り方にはなっていません。低音はさすがに物足りないかと思いきや、アプリ「Headphones」でCLEAR BASSを上げていくと、おお、鳴るじゃん! この聞こえ方はAirPodsの音質に近い気がします(カナル型ではない部分も似てる)。
ちなみに、ソニーによる耳をふさがないイヤホンの先駆けには、2018年頃の「Xperia Ear Duo」があります。あちらは耳元でスピーカーが鳴っているという印象したが、今回の「LinkBuds」は、ちゃんとイヤホンっぽい聞こえ方してますね。最近出たAmbieの「AM-TW01」も、耳元スピーカータイプ。
実際に「LinkBuds」を装着して家で過ごしてたんですけど、静かな環境で使ってると耳をふさいでいないことを忘れるほどには、普通のイヤホンのように聞いていました。外で使った場合は電車のアナウンスや車の音などが聞こえるので、ふさいでないことが自覚できます。この場合は音楽を聞いてることを忘れる=BGM的な感覚が強くなりますね。音漏れの度合いは、iPhoneにつないで音量7割程度で、握手できる距離の人にうっすら聞こえる程度。
イヤホンの操作はタップですが、反応は良い感じです。「ワイドエリアタップ」という面白い機能もあって、なんとイヤホン本体でなく、もみあげのあたりをトントンしても反応するんですよ。髪が長い人はイヤホン本体を触るのが難しいときがありますが、これなら操作もしやすい。ちょっとした改造人間感があって楽しいねコレ。
「LinkBuds」はドライバーを耳の穴に押し込んでから、耳のくぼみにフィッティングサポーターを差し込むことでイヤホン本体を支えます。ピアスでいうとルークの位置にサポーターがくる感じ。
で、右耳だけサポーターのサイズをワンサイズ小さくしたら、うまくハマりました。人体は左右対称ではないと言いますが、耳の形も左右で同じとは限りません。「LinkBuds」の場合は正しく装着しないとポロっと落ちてしまうので、な〜んか合わないなぁと感じたら、サポーターサイズの変更をお試しあれ! サポーターは5種類同梱されています。
また、うまく装着できた場合も、顎関節を動かしたりするとサポーターの位置が簡単にズレることがありました。家で掃除をしながら「LinkBuds」を使っていたときはズレを感じませんでしたが、飲み物を飲んだり会話した際にはイヤホンポロリしかけました。うまく装着できてさえいれば簡単にはポロリしないけれど、耳穴が動いた際はズレる可能性高いですね。
一般的なイヤホンよりも、ちゃんと装着できたかどうかが重要なイヤホンです(音の聞こえ方もめっちゃ変わる)。スっと入るときは入るので、慣れというよりもサポーターサイズが重要になってくる気がしますね。とはいえ人の耳の形は千差万別ですから、サポーターが入らないほど耳の窪みが浅い人もいないとも限らない…。気になる人は試着しておくが吉かと。
「LinkBuds」はデザインもクールで、ソニーのヘッドホンとしては初めて、本体とケースに再生プラスチックを採用しています。つぶつぶ模様は再生素材の証。SDGsな時代だからこそ生まれたデザインって感じで僕は好き。それに、音のARっていうながら聞きイヤホンの特性を活かしたコンテンツ展開をにらんでるところも攻めていて好き。見た目も野望も画期的じゃんよ。
余談ですが、昨今のながら聞きイヤホンや骨伝導イヤホンの盛り上がりは、パーソナルな感覚を大事にしつつも外界とつながっていたい的な、現代的欲求の具現なのかなとも思ってます。ネットしかりSNSしかり、今やどこでもつながっています。イヤホンやヘッドホンは聴覚を塞いで閉鎖空間を作り出しますが、そこをあえて外界とのつながりを残すことで、閉鎖的にコンテンツを楽しみつつ、肉体は世界をつながっていられる、と。あと単純に便利っていう。
そこを実現するためには外界の雑音に負けない綿密なチューニングが必要になるわけですが、「LinkBuds」のサウンドははながら聞きイヤホンの水準を引き上げましたね。なおかつ、現実世界とつながりながらコンテンツを享受できるメリットを音のARに見出している。このへんの多機能さって、ノイキャンのような昨今のイヤホンのそれとは全然違う方向性ですし、イヤホン新境地を開拓してる感ありますよ。
第3のイヤホン、あるいはイヤホンから派生した亜イヤホン。「LinkBuds」はそんなポジションになれる気がしました。まだ見ぬイヤホンの進化系統樹が、ここから始まりそうですよ。
Photo: ヤマダユウス型Source: ソニー