Shure初の完全ワイヤレス「AONIC」。 “有線級サウンド” 実現の背景を聞いた<CES>

米国ラスベガスで開催されたCES 2020において、Shureは同社初となる完全ワイヤレスイヤホン「AONIC 215」、およびノイズキャンセリング機能を搭載したBluetoothヘッドホン「AONIC 50」を発表。会場の同社ブースでは、企画を行ったシニア・カテゴリー・ディレクターのマット・エングストローム氏にインタビューを行い、製品の意図や開発の裏話などを伺うことができた。

エンジニアを務めたトーマス・バンクス氏(左)/企画を行ったシニア・カテゴリー・ディレクターのマット・エングストローム氏(右)■完全ワイヤレスながら良い音を追求した「AONIC 215」AONIC 215は、型番から想像できる通り「SE215」がベースになった完全ワイヤレスイヤホンだ。イヤホン本体での連続再生時間は最大8時間、充電ケースからは3回のフル充電が可能。リケーブル対応になっており、イヤホン本体部とBluetoothレシーバー部分が分離する設計となっている。「AONIC 215」充電ケースに入れた状態製品のコンセプトについてマット氏は、「Shureイヤホンを使っている方が本当に良い音を楽しめる」ことを最優先に開発したと話す。他社の完全ワイヤレスイヤホンでは、イヤホン部にバッテリーやアンテナ、基板などを搭載するものが通常。だが、あえてイヤホンとこれらの要素を分離することで、音質をはじめとした多くのメリットが得られた。ところで、なぜこのタイミングで同社は完全ワイヤレスイヤホンをリリースしたのか。マット氏に尋ねると、2年の開発期間により、ようやく同社が求めるスペックや音を満たす製品に仕上がったから、という。「やっと出すことができた」というマット氏のコメントには実感がこもっていた。なお、完全ワイヤレスイヤホンの構想自体は3年前からあったが、同社の厳しい基準を満たすため、企画をゼロから進め直したりなど、多くの試行錯誤があったとのこと。その結果として、イヤホンとリケーブルというかたちに辿り着いたが、このメリットとして大きいのは、電源部を分離できることだという。これによって電源をクリーンにできるほか、SoC内蔵のアンプではなく外付けアンプを搭載し、より音質を追求することができる。さらに言うと、このアンプは今回、新たに開発したものだ。イヤホンを取り外した状態本製品はSE215とのセットとしているが、マット氏が「SE846と組み合わせても、十分に鳴らし切ることができる」と自信をみせるように、同社SEシリーズと組み合わせての使用も可能。時期は未定だが、ケーブル単体での販売計画もあるという。またMMCXコネクターを採用するため、他社イヤホンとの組み合わせにも対応する。余談だが、同社がすでにリリースしているネックバンド型のBluetoothリケーブル「RMCE-BT2」との音質的な違いについても、マット氏に訪ねてみた。AONIC 215のアンプは新規開発したものだと先に述べたが、タイプとしては似たものとのこと。そのため、音質については “同レベル” だという。「RMCE-BT2」も会場に展示されていた音質は同レベルとしながらも、コーデックについてはAONIC 215がSBC/AAC/aptX、一方でBT2はSBC/AAC/aptX/aptX HD/aptX LLとより上位のものに対応しているため、やはりBT2にアドバンテージがあるとのこと。とはいえAONICには、ケーブルがなく軽快という利点があるので、好みに応じて使い分けてほしいと説明してくれた。AONIC 215の話に戻るが、プロ用ワイヤレスマイクチームと協力したという接続性の高さもポイントだ。アンテナは円形のバッテリー部から伸びるようなかたちだ。Bluetoothの電波は水分が大量に含まれる人間の頭部を通り抜けることはできないが、この構造によって耳の裏側部分にアンテナを配置でき、遮るものが少ない状態で左右を接続することができる。アンテナの位置を工夫することで接続性も高めたそしてマイクは、片耳あたり2つ搭載。外音取り込みモードや、ハンズフリー通話にも対応する。このマイクも新規開発したもので、通話のしやすさも追求している。デザインでは、いわゆる “Shure掛け” ができることもポイント。ケースにはトレードマークである丸いケースを採用するなど、細かな点についてもこだわったという。ケースの裏側にはバッテリー残量が表示。充電端子にはUSB Type-Cを採用する片側あたり2つのマイクを搭載する■カジュアルな外見で “プロ仕様” を追求したノイキャンヘッドホン「AONIC 50」AONIC 50は、ノイズキャンセリング機能を搭載するBluetoothヘッドホン。20時間の連続再生時間を実現している。「AONIC 50」2色のカラーバリエーションで展開する多くのプロ用モニターヘッドホンをラインナップする同社。AONIC 50はカジュアルな見た目ながらも、耐久性や素材を追求するなど、「一般ユーザーだけでなくミュージシャンなどのプロにも使ってもらえる製品に仕上げた」とマット氏は話す。ブースで実施されていた耐久性テストShureのブースには耐久性をテストする装置が置かれており、さまざまな方向へ力を動かしたり、ねじったりするデモも行われていた。このような装置はあまり表に出すことがないと話しており、貴重な機会だという。ブースでは興味をもつ来場者も多く見受けられた。先述のようにプロ向け製品が多い同社であるが、今回カジュアルなデザインを採用した理由として、「外で使えるような外観」という初期段階から決まっていたコンセプトがあったとのこと。また、ブースでは開発に携わったトーマス・バンクス氏にデザインについて伺うことができたが、クロームのロゴをハウジングに配置するほか、ヘッドバンドの裏側にロゴを配置。ロゴの主張を抑えることで高級感を追求したと話していた。ヘッドバンドの裏側にSHUREロゴを配置するなど、控えめなデザインLRの文字も、内側に配置されているそれでは、音質面ではどうだろうか。音質的に大きくこだわった点として、マット氏は「ワイヤレスでもワイヤードでも、ノイズキャンセリングでも同じ音で楽しめる」とアピールする。開発にあたっては、まずヘッドホンとしての音を決めてから、ワイヤレス時やノイズキャンセリング時の音を決めたという。なお、ShureはこれまでBluetoothヘッドホンをラインナップしておらず、AONIC 50が初めての製品だ。同社ではこれまで音質を最重要視しており、社内ではBluetoothは音が良くないという意見が大半。そのため、これまで対応していなかったのだという。しかし近年では、aptX HDやLDACといったハイレゾ対応コーデックも普及するなどBluetooth接続での音質も改善。さらにノイズキャンセリング(ANC)使用時の音質も改善されてきており、「オーバーイヤーで高度な技術を搭載したものを、やっと出せる時代になった」という。コーデックは先述のようにaptX HDとLDACに対応するほか、SBC/AAC/aptX/aptX LLに対応。ハウジングにはアナログ接続が可能な3.5mmジャックを備えるほか、USB Type-CからUSBケーブルで繋ぐことにより、94kHz/24bitのデジタル接続も行える。アナログ入力やUSB端子、ノイズキャンセリングと外音取り込みを切り替えられるスイッチも搭載イヤーパッドは取り外し可能。洗うこともできるまた、Shureのブースではノイズキャンセリングの効果をアピールするため、飛行機を模したデモシステムも用意。CESに合わせて作ったが、今後は世界各国を回るとのこと。画面の指示に従いながら2分間の動画を視聴するという内容だ。なお、1人体験するごとに10ドルが教育機関に寄付されるという。飛行機を模したデモでノイズキャンセリングを体験■専用アプリからイコライザー調節などが可能AONIC 215とAONIC 50は、ともにアプリ「ShurePlus PLAY」に対応する。これまでも配信されていたアプリではあるが、製品の発売に合わせてアップデートを行い、イコライザーや外音取り込みモードといった設定が行えるようになる。イコライザーでは、製品の開発チームによって作られたプリセットを選べるほか、ユーザー自身でカスタマイズすることも可能。マット氏いわく、「SE846で採用したノズルインサート交換によるサウンドカスタマイズが好評だったので、これをアプリ上で再現した」という。プリセットからイコライザーを選択可能アプリでは、カスタマイズで好みに応じたイコライザーの設定もできるまた、外音取り込みモードの音量レベルをアプリから調節することで、AONIC 215では高遮音性を活かし、イヤープラグ(耳栓)のように使用することもできる。ライブなど音量の大きい場所において、聞こえる音量をコントロールし、耳を保護することができるのだ。このようにAONIC 215とAONIC 50は、多くのこだわりが詰め込められており、「サウンド、装着感、デザイン、安定した接続などによって、さまざまなユーザーに使っていただける製品に仕上がった」とのこと。またマット氏は「最新のテクノロジーを使用した、Shureらしい製品を開発できた」と自信満々にアピールしていた。

  Shure初の完全ワイヤレス「AONIC」。 “有線級サウンド” 実現の背景を聞いた<CES>