iPhone 13/13 Proが発表されました。今年も予定通りに新しい高性能SoCが採用され、新しいSoCのパワフルな演算能力でカメラが進化しているようです。なんだか既視感があるな? と思っている方もいるでしょうが、発表イベントではバッテリー持続時間が伸びていることも強く訴求していましたよね。
バッテリー持ちが良くなった理由について、Appleはバッテリーに割り当てる容積を増やしてそもそものバッテリー容量が増加していることと、A15 Bionicの省電力性能が高くなっていることなどを挙げています。
しかし、どこまで貢献しているかは条件に依存するため評価が難しいものの、LTPOという新しいプロセスで生産されているOLED基板もかなり貢献しているはずです。
この技術は120Hzという高リフレッシュレートを実現するPro Motionや、ピーク値ではない画面全体の明るさを1000nitsまで高めることができたディスプレイの最大輝度にも関連しています。バッテリー持続時間への寄与の度合いは動作条件に依存しますが、iPhone 13 Proという端末全体の体験レベルを引き上げていることは間違いありません。
Apple Watchで導入された技術がiPhone 13 Proに
LTPOはOLEDや液晶を駆動するための基板に薄膜トランジスタを形成するための生産技術で、従来の生産技術に比べ消費電力を下げることができます。LTPOは低温多結晶酸化物の略なのですが、まぁ、そこはあまり重要ではありません。
LTPOは従来のLTPSという生産技術を改良したものであり、画素を駆動する際に薄膜トランジスタに流れるリーク電流という“無駄“が少なくなるという特徴があります。
実はApple、生産工場こそ保有していませんが、OLED関連の技術開発には投資をしており、LTPOに関しても早い時期から関心を寄せ、いくつもの特許を保有しているのです。
Apple Watch Series 5でスリープ時にも盤面が表示される常時点灯が導入されましたが、この時に鍵となったのがLTPOを用いたOLEDでした。その前モデル、Series 4からLTPOは採用していたのですが、目標とする電力まで落とすことができず、画面更新の頻度(リフレッシュレート)を可変にする(最小1Hz)工夫を組み合わせることで常時点灯にできたのでした。
……と、どこかで聞いたことがある気がしますよね?
そう、大々的にLTPOとは言っていませんが、iPhone 13 ProのPro Motionの説明にそっくりなことに気づくでしょう。AppleはiPhone 13 ProでLTPOを別の切り口で活用し、商品力を向上させることに取り組みました。
消費電力を上げずにユーザー体験の質を向上
LTPOによる省電力効果は、生産メーカーの技術的な成熟度合いにもよりますが、5~15%ほど減少すると言われています。ただし従来の生産方式に比べ工程が増えるためコストは15〜20%高くなります。
iPhone 13には採用されず、iPhone 13 Pro/Pro MAXに採用されているのはコストの制約があることに加え、サイズの大きなLTPO OLEDを量産できるのがサムスンディスプレイだけということも理由でしょう。
現状、Appleが採用しているLTPO OLEDもサムスンディスプレイの独占供給です(iPhone 13/13 miniのOLEDはLGディスプレイやBOEも供給しています)。LTPO OLEDのスマートフォン向けパネルは、サムスン以外も生産投資を進めているため、来年にはProライン以外のiPhoneにも採用される可能性があります。
さて、LTPOはリーク電流が下がり、リフレッシュレートも下げられるわけですが、リーク電流というのは光っていない時にも捨てている電力ですから、これまでは有意差がなかった“ダークモード時の省電力効果“に期待できるかもしれません。
興味深いのは、Appleがこの省電力技術を単に消費電力を下げるだけではなく、ユーザーの体験の質として製品開発に反映していることです。
iPhone 13 Proではディスプレイのピーク輝度は1200nitsと、前世代から変わっていません。しかしピーク値ではない画面全体の明るさは最大1000nitsと、従来の800nitsから25%も上がっています。ピーク値が変化していないことから発光効率は同等だと思われ、省電力化できた分の電力的な余裕を晴天下などでの画面の見易さや、HDRコンテンツの画質向上などに割り当てたということです。
言い換えれば、輝度を従来並みに下げて使うとバッテリー持ちがさらに良くなりそうですね。そしてLTPO OLEDを採用することでもう一つ実現できたのがPro Motion技術です。
リフレッシュが遅くても表示を保持できるLTPO
従来のOLEDでは毎秒60回程度は書き換え続けなければ、表示内容を保持することができませんでした。そのため、画面が更新されていない場合でも画素の書き換えがそのくらいは行われていました。
しかし、LTPO OLEDでは最長1秒ぐらい(Apple Watchの場合)まで保持でき、iPhone 13 Proでは毎秒10回まで書き換えを遅くできるとのこと。さらに駆動回路とiOSを連動させ、iPhoneの操作やグラフィクス画面の書き換えに応じて適応的に書き換え回数を変化させます。
スマホの画面は、動画などを見ていない限り、ほとんど書き換えが発生しません。これでOLEDパネルの書き換えに使う電力を節約しているわけですが、iOSによるグラフィクス描画と連動してリフレッシュを変えられるということは、今度は通常(60Hz)よりも高速にすることが可能ということです。
AppleがPro Motionと呼んでいるOLEDの120Hz駆動技術は、タッチパネルの120Hz駆動もセットになっていますから、まるで指に吸い付いたように応答する気持ちの良い操作感が実現されていることに期待できるでしょう。
なお、LTPO OLEDそのものはもちろんサムスンも昨年から採用しています。またOPPOの最新モデルなどでも採用されているほか、Googleの新端末もLTPO OLEDです。
いずれも120Hzあるいは144Hzで駆動していますが、ではアプリと組み合わせ、動画や写真などの表示品質などの体験も含めて、どこまで端末の付加価値にできているか、そんなマニアックな視点で、ライバル端末を比べてみるのもいいかもしれないですね。
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