鶏の行動ビッグデータ(大量データ)の収集が始まっている。採卵鶏はケージ飼いが主流で、鶏が餌を食べる際にケージの前面に並ぶためカメラで中を判別しにくい。一方、食肉用のブロイラーは平飼いが主流。平飼いなら天井に設置したカメラ1台で鶏100羽以上の行動データを集められる。
山形大学の片平光彦教授と堀口健一教授、ViAR&E(東京都港区)の市浦茂社長は人工知能(AI)技術のディープラーニング(深層学習)を使った鶏の行動判定技術の開発に注力する。
4000枚の画像を学習させることで採餌と水飲み、休憩の識別率が100%になった。
市浦社長は「他の研究者が選ばない手法を試している。AIに特化した中央演算処理装置(CPU)が出てくれば学習が大変ということもなくなる」と話す。市浦社長は米半導体大手のエヌビディア出身。将来のCPUの能力向上を見越してデータを集めている。
同時に羽紋で1羽ごとに個体識別して追跡する技術も開発中だ。1羽ごとに体重が増える速度を記録して活動量を可視化する。鶏は別の鶏をつつき羽根をむしるなど厳しい序列をつくる習性がある。そのため、集団の中でいじめられ弱っている固体を特定できれば、区画を入れ替えるなど対応ができる。堀口教授は「養鶏農家の観察眼をAIに生かせる」と期待する。
鹿児島大学の小沢真准教授は、富士通鹿児島インフォネット(鹿児島市)や中嶋製作所(長野市)などと共同でカメラ映像から鶏の体重や活動量を推定する技術を開発した。画像認識AIで鶏を識別し、画像の鶏の大きさから立体的な体積を求め、体重を算出する。推定誤差は調整前でプラスマイナス5%の精度を誇る。
鶏舎ではヒナを入れてから出荷するまで体重が一定のペースで増える。小沢准教授は「農場ごとに理想とする体重の増える速度がある。どれだけ理想値と近いかを確認しながら飼養管理を判断して出荷日を決める」と説明する。
活動量の計測では鶏を識別して数秒後の画像でどれだけ移動したかを計算する。鶏が風邪をひいて活動量が下がるなど病気で死ぬ予兆を探す。現状は死ぬ鶏が増えてから病因を判別している。一般的にブロイラーは太るにつれて運動量が落ちる。日々の変化に対し、急に活動量が減ると何か異常が起きているというサインにもなる。
現在、中嶋製作所が実用化に向けて画像認識システムの開発を進めている。同社のデータ収集システムと連携し、日々の飼育管理に活用していく予定だ。
日刊工業新聞2021年7月15日
COMMENT
カメラとAI、平飼いは相性がよく大量のデータを集められます。まずはニーズが顕在化している体調不良検出として導入が進むはずです。その次が行動欲求の分析と飼育環境の改善。その先に動物福祉に配慮した飼育履歴保証があるのだと思います。これがブランドや付加価値として認められれば商売が成り立ちます。動物や生き物を利用しないと人間社会は成り立たちません。動物の権利は叶えるのが難しくても、動物の福祉は経営合理性がある活動にできると思います。