配信
0コメント0件今回のオンライン報告会でAxelGlobeのこれまでの進捗、国内外での活用事例、および今後の計画が公開されたので、その概要を紹介する。【もっと写真を見る】
写真:アスキー
最先端のフロンティアと呼ぶべき宇宙開発競争において、世界のトップランナーとして走り続けている株式会社アクセルスペースが、次世代地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」の事業進捗報告会をオンラインで開催した。AxelGlobeは超小型衛星5基からなる衛星コンステレーションであり、アクセルスペースはそこから得られる画像データをはじめとする様々な情報に基づいて企業や各国政府に向けたサービスを展開している。AxelGlobeは2021年6月にそれまでの衛星1基体制から5基体制へと拡充した後、サービスラインナップの拡充および利用分野の拡大を実現し、それに伴って急速な事業成長を遂げている。また、今後もさらに衛星を打ち上げ、観測体制を強化するとともに事業の拡大を進めるとしている。今回のオンライン報告会でAxelGlobeのこれまでの進捗、国内外での活用事例、および今後の計画が公開されたので、その概要を紹介する。 アクセルスペースの衛星コンステレーションAxelGlobeの概要 アクセルスペース衛星コンステレーションAxelGlobeは、GRUSと名付けられた自社開発・製造の超小型衛星5基によって運用されている。GRUSは100kg級という宇宙衛星としては非常にコンパクトなサイズであるにもかかわらず、地上分解能2.5m、東西方向の撮影幅57km、南北方向1000km超、日本を含む中緯度域で2日に1回の撮影頻度を実現している。 AxelGlobeは単に撮影された衛星画像をユーザーに提供するだけのサービスではない。利用目的に応じた画像の撮影から、得られた画像を解析し、意思決定に有効な情報を抽出するサービスまでを含む垂直統合型のソリューション提供プラットフォームとなっている。同社はAxelGlobeによって毎日取得している衛星画像をビッグデータとして蓄積しており、それらを解析して企業の経営判断や行政の政策決定の基となる情報を提供している。さらに昨年6月からはユーザーが希望する地域に対して定期的に新規撮影を行うサービス「AxelGlobe Tasking & Monitoring」を開始した。AxelGlobeによって取得された衛星画像の用途として代表的なものとして農業が挙げられる。GRUSには近赤外線センサが搭載されているため、単純に田畑を撮影した画像によって育成状況を確認するだけでなく、NDVI解析を行ってより精緻な育成状況測定が実現できる。「サーモグラフィーのように色で植物の育成状況を可視化することができ、この中でどれが育っているのか、どこに異常があるのかを一目で把握することができる。これは全世界的に利用が進んでおり、大規模な農作地での農業の効率化にご利用いただいている。」(株式会社アクセルスペース 取締役 CPO 中西 佑介氏)(以下、中西氏)同様な用途として森林管理やバイオマス測定があり、人手によるカバーが困難な地域の調査ニーズに活用されている。また、老朽化した道路などインフラの更新・補修は世界的な課題となってきているが、衛星画像は洪水や地震の被害状況確認や工事の進捗管理にも利用できる。加えてスペクトル解析技術を適用することにより、インフラの劣化・異常を検知するサービスの開発も進めている。さらに、例えば交通量の解析や港湾における自動車の出荷量を測定することによって、経済活動の基礎データとなる指標の算出が可能になる。すなわち衛星画像が経営判断に寄与するBIツールとして利用できるようになるということで、これは現在世界中の解析技術を持つ企業と連携して様々な新規解析技術の開発を行っている。AxelGlobeの運用衛星数の増加による機能の拡張と、それに伴う用途の拡大がアクセルスペースの急速な売り上げ成長に結びついている。衛星が5基体制になった2021年下期は、前年同期と比較して約19倍となる売り上げ増加となった。また2022年上期はさらにその2倍となる予定で、前年同期と比較すると約17倍の売り上げ成長を見込んでいる。衛星データの活用領域を拡大するため、世界各地の企業との連携も進めている。既に50社以上の企業とパートナーシップを構築済みで、さらにより広範なビジネス領域、マーケットに向けて連携を拡げていくとしている。 活用が進むAxelGlobeのユースケース7例 AxelGlobe事業の現況説明に続いて、国内外での利用事例の紹介がなされた。海外の事例として最初に紹介されたのはオーストラリアの尿業テック系のスタートアップData Farming社で、世界中の農家に衛星画像を活用した作物の生育管理サービスを提供している。「以前はESA/EUの衛星から分解能10m超の衛星画像を利用していたが、米や綿、サトウキビのような成長の早い作物に対してはさらに高解像度の画像データが必要だった。2021年11月末から12月にかけて合計約100万ヘクタールに及ぶ地域の撮影を行った。その中から約13万ヘクタールのデータをさらに加工して顧客に提供している。今後もアクセルスペースとのパートナーシップを強化し、より多くの顧客にサービスを提供していきたいと思っている。」(DataFarming Managing Director & CEO, Time Neale氏)ロシアのExactFarming社も同様にAxelGlobeの衛星画像を農業におけるリスク管理や意思決定の基礎情報として活用するサービスを提供している。既に8500もの農家が同社のサービスを利用しており、農地を合計すると860万ヘクタールに達するとのことだ。また、AxelGlobeの衛星画像にNDVI解析を行って、将来的に安定した収穫が得られる土地の発見にも活用する農地生産インデックス・マップサービスの開発も進めている。フランスのHEAD Aerospace社は農業以外にも広範な分野でのリモートセンシング画像提供サービスを行っている。「わが社は高分解能及び中分解能のリモートセンシング画像をヨーロッパ、アフリカ、中東、アジア太平洋、北アメリカ、ラテンアメリカ、ロシア周辺地域など世界中のパートナーに提供している。地上分解能2.5mでレッドエッジセンサーを搭載したGRUS衛星は、私たちの保有する45基の衛星ポートフォリオを上手く保管してくれると感じている。」(HEAD Aerospace Managing Director, HEAD Aerospace Group, Kammy Brun)海外事例の4つ目はザンビアで資源管理及び投資顧問サービスを提供しているLloyds Financial社で、アクセルスペースと共同でザンビアやアフリカ諸国における道路などのインフラ監視および金融セクターのソリューション開発に取り組んでいる。「ザンビアの発展及び課題解決のため、データというものがこれほど必要とされたことはありません。私たちは公共・民間の双方に対して実用的な空間・時間分解能を持った衛星データおよびその解析能力を提供することを目的にLloydsデータスペシャルセンターを設立しており、地理的BI等の様々な用途に利用可能なデータへのアクセス機能を実現しました。アクセルスペースの持つ衛星技術・リモートセンシング技術は、当社がザンビア及びアフリカ全体を支えるための強力な基盤となるでしょう。」(Lloyds Financials CEO Lloyds Chingambo, 他3名)国内事例の1つ目は文部科学省設立の国立研究開発法人 防災科学研究所で進められている災害発生時の被害把握に対する衛星データの活用で、すでに2021年10月の阿蘇山の噴火ではGRUSのデータに基づいて被害状況をサイト上に公開している。防災科学研究所は自然災害に対する予測力、予防力、対応力、回復力の総合的な向上を図る研究機関だが、特に対応力については情報を上手く活用して自然災害に対峙し、被害の軽減から素早い回復・復興へと結びつけるところが重要になってくる。「例えば令和元年の台風15号では災害発生直後の第1報時点ではほとんど状況把握ができておらず、1か月くらい経って情報が出揃ってきた。いち早く被害の全容を把握する必要があり、現状の情報だけでは不十分。やはり衛星が重要になると考えている。」(国立研究開発法人 防災科学研究所 理事長補佐 防災情報研究部門 副部門長 田口 仁氏)災害発生直後はSNSなどで断片的に被害状況の発信がなされるが、それらは広域かつ面的な情報ではなく、具体的なオペレーションを起動するには衛星を使った被害全体像の把握が重要になる。特に航空写真やドローンなどを活用できるようになる災害発生後24時間経過までの間は、衛星からのデータが頼りとなる。 南海トラフのような巨大地震では被害が極めて広域に及ぶことが想定され、被害状況の早期把握のために、複数の国・機関・企業の衛星を束ねて衛星データの即時性・広域性を高めるシステム「ワンストップシステム」の研究開発を内閣府の主導で進めている。現在5基運用のAxelGlobeに対しても、さらに多くの衛星を打ち上げて時間的・空間的カバレッジを拡大していくことが期待されている。 自然災害に備える防災システム等 国内事例の2つ目は會澤高圧コンクリート株式会社で開発が進められている河川防災システムが挙げられている。會澤高圧コンクリートは生コン事業や基礎地盤事業をメインにグローバル展開を進めている企業だが、研究開発型生産拠点を建設中の福島県浪江町と連携して衛星データを活用した河川防災システムの実用化を進めている。この河川防災システムは、衛星データによる川幅の変化から河川氾濫の予兆を検知し、浸水被害が予測される地域に対して防災情報を提供するシステムとなっている。現在のAxelGlobeの撮影頻度が最大で2日に1度となっているように、衛星だけでは川幅の変化というリアルタイム性を求められる情報に対応しきれない。そこで本防災システムの開発フェーズでは地上設置型のレーザー3Dスキャナを用いて川幅の測定を行い、衛星データの解析結果と比較して反乱予測を行っている。ただし、日本には中小河川が2万本以上あり、そのすべてを固定式センサーなどで測定するのは現実的ではない。そこで雨天強風時でも飛行できるエンジンドローンを開発し、これを用いて地上観測を行う予定になっている。災害予測情報はスマホなどのアプリを通じて該当地域の住民に対して告知される。その際、河川氾濫の発生予測時刻だけでなく、住民の避難を後押しするようドローンによる現時点での河川のリアルタイム映像も配信することにしている。これまでの災害時の避難状況を見ても、避難警報だけでは危機感を持たない人も少なくない。住民の安心安全に効果的なアプリとなることを期待したい。国内事例の3つ目としては、テクノロジーの力で取材をしてメディアの支援や自治体・一般市民への情報提供を行っているJX通信社の事例が取り上げられた。同社は行政・法人向けに展開しているビッグデータリスク情報SaaS「FASTALERT」にAxelGlobeの衛星データを活用している。FASTALERTはTwitterやInstagramなどの主要SNSや自社のニュースアプリを通じて投稿される情報を解析し、リスク情報として企業や自治体・政府に提供している。例えばYahoo Japanのトップページに掲載されている新型コロナ情報も、同社が配信している。このとき、SNSなどに投稿される情報は点の情報であるため、そのままでは情報の全体像が把握しづらい。そこでライブカメラや自動車のテレマティクスデータなどのビッグデータと重ね合わせることによって、点から線、線から面の情報として再構成しているところが同社の独自技術となっている。FASTALERTはSNSに投稿される情報を1分間に1000~2000件程度読み込み、それらに自然言語処理や画像解析などのAI技術を適用することにより、いつ、どこで、何が起こったのかを判定し、最短約60秒で配信している。FASTALERTは多くのメディア企業やインフラ企業に導入されており、災害発生などの際には衛星画像を必要とするユーザーも多い。そこでAIに衛星の写真撮影の指示をさせ、特にメディア関係者に向けてサービス提供している。例えば昨年の熱海で起きた土砂災害では、ドローンを飛ばせたのが災害発生後1日経過してからで、NHKも初日はカメラが現場に入れなかった。昼頃の災害発生から夕方までNHKで流れていたのはTwitterに投稿された動画で、FASTALERTは投稿の12秒後に検知をしていた。さらに広域の情報が欲しいというリクエストを受け、AxelGlobeで撮影した画像を配信した。「こういった局地化、激甚化、広域に影響を及ぼす災害を多角的に捉えるために、地上から見たSNSの画像や宇宙から見た画像、もう少し近づいてドローンの画像、あるいは自動車から得た情報など様々な情報を組み合わせることが必要になってくる。そのためにFASTALERT上でアクセルスペースと連携したサービスをご提供している。」(株式会社JX通信社 FASTALERT 公共戦略ユニットマネージャー 藤井 大輔氏)FASTALERTは国内だけではなく海外の情報も扱っており、例えば南極観測船しらせの軌跡を衛星から見た画像など、誰も見たことのない世界の撮影も行っている。AIと衛星を組み合わせた非常にユニークな情報発信プラットフォームFASTALERTは今後さらに活躍の場を拡げていくだろう。 続々登場するAxelGlobeの新プロダクトラインナップ 現在提供中のAxelGlobe Tasking & Monitoringに加えて、新たに4つのプロダクトの提供がアナウンスされた。1つ目はAG Archiveで、AxelGlobeで撮影・蓄積されていく衛星画像を自由に利用することができるサービスだ。異なる時間軸の地上風景を比較したり、雲量など撮影条件で比較することもできる。想定される用途としては環境問題や時事問題に関する時系列変化調査や都市計画策定に活用してもらいたいとしている。2つ目のプロダクトはAG Cloudless Mosaicで、衛星画像につきものの雲を排除した画像を提供するサービスで、地図の作成や防災用のベースマップとしての活用が期待されている。まず日本全土の雲無しベースマップをリリースする予定だが、海外もニーズの高いところから順次提供する予定となっている。3つ目は行事や予定が決まっている時事問題などに対して撮影希望日をユーザーが指定して撮影ができるAG Custom Captureだ。また、災害発生直後にすぐ撮影したいといったニーズにも対応する。最短で以来の翌日に撮影が可能になる。今後は衛星の拡充を行って依頼後数時間での画像提供を目指していくとのことだ。最後の新プロダクトAG Reservationは画像を購入せずに撮影だけを実施するサービスで、撮影した画像は後で必要になったタイミングで購入する。国際情勢が注目されている地域を撮影しておいてインシデント発生後に事前の画像を購入するといった使い方が想定されている。必要な画像だけを必要になったタイミングで購入できるため、ユーザーには非常に大きなコストメリットがある。アクセルスペースは今後のサービス拡大も含め、AxelGlobeの機能強化のために衛星のさらなる打ち上げを予定している。2021年6月に打ち上げた4基の衛星に加えて、2022年4Qにも4基の衛星をAxelGlobeに加えていくことにしている。これにより、現在は2日に1回となっている撮影頻度を1日1回に向上させることができる。「例えば農業においては毎日観測して明日の作業の計画を立てたいといった要望がある。また、(頻度が増えると)晴天の画像が撮れる可能性も増やせるし、AG Cloudless Mosaicの撮影体制を支えることができる。様々なお客様から撮影キャパシティの増加のお声をもらっていましたし、より広い撮影用途やこれまでリーチできていなかったお客様にAxelGlobeの利用の促進をできると考えている。」(中西氏)衛生数が増えることにより、撮りたいときに撮りたいところを録り続けられる体制が整う。衛星を自社開発しているためにコストメリットがあり、ユーザーにとってもニーズにマッチしたサービスを提供できる。出遅れていると言われていた日本の宇宙開発ビジネス開発を、高い分解能と大きな撮影キャパシティを獲得したアクセルスペースが牽引していることを強く印象付けられた事業進捗報告会だった。 「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」配信のご案内ASCII STARTUPでは、「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」と題したメールマガジンにて、国内最先端のスタートアップ情報、イベントレポート、関連するエコシステム識者などの取材成果を毎週月曜に配信しています。興味がある方は、以下の登録フォームボタンをクリックいただき、メールアドレスの設定をお願いいたします。 文● BookLOUD 根本
最終更新:アスキー