人工知能(AI)に関する批判的な見解の中で、最も重大な懸念事項の1つとされるのが、戦場での自律性だ。
さまざまなAI開発メーカーは現在、監視や偵察、目標捕捉などの軍事用途に向けた、独立動作可能な無人操縦システムの開発を、特に邪魔が入ることなく進めているところだ。さらに、このような何かと問題をはらんでいるシステムの開発を手掛けるメーカーは、AI技術も搭載しようとしている。この組み合わせが、膨大な投資資本を引き付けているのだ。
その一例が、米国カリフォルニア州サンディエゴに拠点を置く新興企業Shield AIだ。同社は、最近行われた投資ラウンドのエクイティファイナンスにおいて、2億1000万米ドルを調達した。同社は、「当社の企業価値は10億米ドル規模に達した。新たに獲得した資金を、軍用機の自動操縦のためのAI機能の実現に向けて投資していく考えだ」と主張している。
Shield AIはこのような戦略を履行すべく、2021年7月に、米国テキサス州に拠点を置くMartin UAVを買収した。これにより、Shield AIのAI/自律ソフトウェアスタック「Hivemind」と、Martin AIの垂直離着陸型の無人航空機「V-BAT」が統合されることになった。
垂直離着陸型の無人航空機「V-BAT」 出所:Shield AI 最大手軍事会社であるNorthrop Grummanは2021年9月1日に、米国陸軍プログラムの一環として、V-BATの飛行試験を行った。この飛行試験では、ナビゲーション機能と照準機能をデモ実演しながら、GPSのサポートなしで自動操縦を行ったという。
米軍が最優先事項としているのは、GPS妨害などのさまざまな干渉を受けても戦闘活動を行うことが可能な機能を実現することだ。
V-BATは、電子戦機や、電気光学/赤外線センサー、合成開口レーダーセンサーなど、交換可能なペイロードを搭載できるよう設計されている。Shield AIとMartin UAVは、Hivemindの自律機能をV-BATに移植することにより、GPSナビゲーションなしで運用できるようにするための機能を追加する予定だという。このような自動偵察センサーは最終的に、米軍の旅団戦闘団(BCT:Brigade Combat Team)や特殊部隊、レンジャー大隊などが使用するとみられる。
センサードローンの発進および回収は、2つの操作で行うことが可能だ。今のところ、米軍がこのような自立型システムを導入する時期や場所などの詳細は不明だが、最近行われた飛行試験から、AIベースの自律プラットフォームが、まずは偵察の役割を担うことで、着実に戦場に向かって進んでいるということが明確に分かる。
ドローン業界の圧力団体は、自律型への移行が本格化していることを受け、「民生用途に関する現行の規則は、既存の手動ドローン向けに策定されたものだ」と議論を展開している。また、非営利団体であるAUVSI(Association for Unmanned Vehicle Systems:世界無人機協会)のメンバーたちは、「信頼性の高い自律機能の実現により、新たな運用方法や規制アプローチが可能になるだろう」と主張する。
AUVSIは引き続き、米連邦航空局(FAA)に対し、軍事やセキュリティ、公共の安全などのさまざまな産業用途において利用される無人操縦システムについて、より高い自律性を認めるよう要請していくとしている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】