航空機と同等レベルの安全性をいかにして実現するか
──とはいえ、空飛ぶクルマの本格的な実用化に向けては、クリアすべき課題も少なくないと聞きます。具体的にはどのような点がネックとなっているのでしょう。
福澤氏: まず機体についていえば、現在広く利用されている航空機やヘリコプターなどと同じレベルの安全性を確保しなくてはなりません。また、国土交通省や海外の監督官庁の認証もきちんと取得する必要があります。ここまで持って行くのはかなりハードルが高いと思っています。機体が大型になるほど安定性の確保が難しくなりますし、プロペラから発生する騒音やバッテリーの容量などにも改善の余地があります。既存の機体のような飛行実績やノウハウもまだまだ少ない中で、どう機体の完成度を上げていくかが大きな課題です。
船公: もう1つ挙げるとすれば、機体を飛ばす場所の問題ですね。NECでは、空飛ぶクルマの管理基盤の構築に向けた取り組みの第一歩として、試作機の浮上実験を行いましたが、これも許可が必要なのでどこでも飛ばすという訳にはいきません。そこで当社我孫子事業所内に、20m四方×高さ10mのエリアをフェンスで囲った専用実験場を新たに設置しました。
山下: 空飛ぶクルマの実用化においては、運行を支えるインフラや管理基盤作りも大きな課題となります。空には既に有人航空機やドローンなどの様々な機体が飛行しているわけですから、これらと共存していくためには空域の利活用を安全性と関連付けながら改めて総合的に検討していく必要があります。加えて、飛行の安全という意味では、サイバーセキュリティ対策も重要なポイントとなっていくはずです。
船公: 既存の有人航空機と空飛ぶクルマには、その飛行方法に大きな違いがあります。航空機は基本的に管制からの指示を受けて飛行しますが、空飛ぶクルマは狭い空域に多くの機体が飛び交うため、管制の指示を受けていたのでは間に合いません。
それぞれの機体の特性なども考慮した上で、この機体はあちらへ、別の機体はそちらへという制御をリアルタイムに行わなくてはならないのです。今回当社が浮上試験を行ったのも、きちんとした運行管理基盤を作るためには、機体そのものの飛行制御についても深く知っておく必要があると考えたからです。
福澤氏: 最近では、自動車の自動運転機能が話題を呼んでいますが、前後左右にしか動けない自動車と違って空飛ぶクルマは3次元的な運動を行います。これをそれぞれが制御していたのではキリがないので、本格的な実用化に向けては、空域全体を制御する管理基盤はなくてはならないものだといえるでしょう。