北京の邦人学者、ネット革命を目撃する:西村友作著『数字中国 デジタル・チャイナ コロナ後の「新経済」』 中央公論新社
新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)にもかかわらず、その震源地とされた中国が感染を抑え、2020年にプラス成長を遂げたのはなぜか。北京で20年間、中国経済とネット革命を目撃してきた邦人学者が解き明かす。
臨場感あふれる防疫ドキュメント
著者、西村友作教授は1974年熊本県生まれ。2002年から北京に住む。中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得、同大で日本人初の専任講師となり、18年に同大国際経済研究院教授に就いた。中国のデジタル・トランスフォーメーション(DX)戦略を活写した本書執筆の動機をこう綴る。新型コロナ禍が大きな歴史的転換点になるかもしれない。中国の大学に在籍する日本人経済学者ならではの情報や視点をもとに、目の前で次々と起こる新たな出来事を記録し、日本に伝えたい。中国は新型コロナにどう立ち向かったのか。本書の特色は著者の体験を交えた生々しい現場報告だ。北京のワクチン接種会場など撮影した写真も豊富。臨場感あふれる防疫ドキュメントになっている。新型コロナが最初に流行した湖北省武漢市は2020年1月23日、都市封鎖(ロックダウン)された。感染者の爆発的増加により各地で医療が崩壊し、肺炎が疑われる患者のコンピューター断層撮影装置(CT)の画像をいかに早く読み取るかが勝負だった。患者一人のCT画像は300枚ほどあり、医師が肉眼で新型コロナかどうか判断するには5~15分かかる。中国電子商取引(EC)最大手アリババ集団の研究機関はいち早く、人工知能(AI)を駆使した画像解析システムを開発した。これにより「20秒で精度96%の検査結果が得られる」ようになった。中国はドローン(小型無人機)メーカーが多い。世界最大手は深センに本社を置くDJIだ。ドローン物流のスタートアップ企業が開発したAI搭載ドローンは、PCR検査の検体輸送に活躍した。医師が少ない医療現場では、最新の第5世代高速通信規格「5G」を利用したオンライン医療が役立った。「AIや5G、ドローンなどを用いたハイテク対策と、民間組織や人民解放軍によるローテクな人海戦術の『合わせ技』で国内の感染拡大を抑え、きわめて厳しい水際対策で外からのウイルスの侵入を防ぐ」。こうした手法で、中国の新型コロナ禍はほぼ終息したという。
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