ハチに着想、自重の40倍もの重さを運ぶ小型ドローン:米研究者が開発(動画あり)

刺した相手に地上最強の痛みを与える生物のひとつとして知られるハチ。あまりの激痛ゆえ、犠牲者には「倒れ込んで絶叫しながら痛みが去るのを待て」という科学的なアドヴァイスが与えられるほどである。

しかしそのハチが、あの小さな体からは想像できないほどの重い荷物を運ぶ能力に恵まれていることはあまり知られていない。

ハチの秘密兵器「爪間盤」

超小型無人航空機(MAV)とも呼ばれる一般的な小型ドローンは、せいぜい自重と同程度の物しか持ち上げることができない。かといって、ドローンが巨大翼竜並みの大型サイズでは困る。それならば、荷物を持ち上げる新たな方法を考えなくてはならないだろう。

そこで、ドローンの設計者たちはハチに助けを求めた。

ハチは獲物に針を突き刺して気絶させるが、相手の体が大きすぎて持ち上げられない場合、空を飛ぶ代わりに獲物を引きずって運ぶ。それを可能にしているのが「爪間盤(ソウカンバン)」だ。これはハチの脚の先にある部位で、物体の表面をしっかりとらえることができる。

この爪間盤と脚の爪を組み合わせて使うことで、抱えて飛び上がるには重すぎる物も、ハチたちは上手に運んでゆくのだ。

ハチに着想、自重の40倍もの重さを運ぶ小型ドローン:米研究者が開発(動画あり)

テーブルに張り付き重いものを巻き上げる

エンジニアたちは、ドローンにもハチと同じことをしてもらおうと考えている。

「フライクロタッグス(FlyCroTugs)」は、空飛ぶ暴れん坊たちからヒントを得て誕生した新型ロボットだ。一見すると、手のひらサイズのよくあるクアッドコプターにも見える。しかし腹の部分に、ある秘密が隠されているのだ。

フライクロタッグスには2つのヴァージョンがある。ひとつはフックがついているタイプで、これを着地面の突起やくぼみに引っ掛けて自分の胴体をしっかり固定する。ちょうど、ハチが爪を立てるようにだ。もうひとつはパッドがついているタイプで、滑らかな表面に貼りついて胴体を固定する。

さらに、どちらのマシンにも極小のウィンチ(巻き上げ機)がついている。これを使って自重の40倍にもなる重い荷物を持ち上げたり、引きずったりして動かせるのだ。フックの仕組みは実に単純で、テコの原理を使って接地面に機体を定着させる正攻法である。

「複数のフックを隣り合わせに配置する方法を試しているところです。それぞれのフックが着地面の突起をつかんで一斉に引っ張り上げることで、単一のフックよりもずっと大きな力が生まれます」と、スタンフォード大学のロボット研究者マシュー・エストラーダは語る。彼は2018年10月24日付の『サイエンスロボティクス』で、このマシンについて詳しく説明している。

パッドのほうの仕組みは、ハチではなくヤモリの脚に着想を得ている。だが、これは特に新しい技術というわけではない。スタンフォード大学の研究者たちはすでにこの技術を使って、宇宙ゴミをキャッチして回収する装置の設計に取り組んでいる。とはいえ、この技術がフライクロタッグスにヤモリ並みのグリップ力と、昆虫のように物を持ち上げる能力を授けたことは確かだ。

1台でできないタスクは数で解決

この芸当を可能にしているのは、「ファンデルワールス力」と呼ばれる作用だ。ドローンの底部は、シリコン製の細かい突起でびっしりと覆われている。滑らかな場所にしっかり着地すると、突起はすべて接地面に沿って同じ向きに倒れる(下のGIF動画を参照)。