さよならTouchBar、おかえりポート。
あのApple(アップル)が、ユーザーが本当に欲しいMacBookを提供したのは初めてかも。スペックや機能は申し分ない新型MacBook Proですが、相応のお値段もするわけで、誰もが簡単に買える代物ではありません。これまでのMac Bookとどれだけ違うのか、どんな人に向いているのか、米Gizmodoのライター、Caitlin McGarryによるがっつり長文レビューをお届けします。
私は、2006年にアップルが初めてMacBookを発表してからずっとMacBookユーザーです。ポリカーボネート製の白いMacBookと大学生活を共にし、20代半ばでMacBook Airに乗り換え、仕事でより多くのプロセッサが必要になってからはMacBook Proに買い替えました。
これまで、バタフライキーボード、TouchBar搭載、Intel製プロセッサ、アップル製シリコンを搭載したものなど、さまざまなMacBookを使ってきました。どのMacBookにも何らかの欠点がありました。そしてその点では新しいMacBook Proもそうです。でも、今回のMacBookは、これまでで初めてイノベーションのためのトレードオフを強要させられるというよりは、アップルが初めてユーザーの声を聞き入れたと感じられる製品に仕上がっています。
14インチおよび16インチのMacBook Proは、昨年発売された13インチのMacBook Proと比べて、Intelバージョンはもちろん、M1の改良も含めて大幅にアップグレードされました。アップルは、M1 ProとM1 MaxでカスタムのM1 システムオンチップ(SoC)を推進していて、14インチ/16インチのMacBook Proはどちらのプロセッサでも構成できます(さらにストレージとRAMも増強可能)。
先週から使っている14インチのM1 Max MacBook Proは、これまでテストしてきた他のどのノートPCよりもパワフルで、クリエイティブな仕事には欠かせない存在となりました。そして、他にも今回の新しいMacBook Proを手に入れる理由がたくさんあり、それらの多くは過去のMacBookの進化の過程で、アップルが捨てた機能を復活させたものだったりします。過去にMacBookのキーボードの調子が悪くなったり、ポートの数が減らされて辛い思いをしたことがある人は、新しいMacBookを見て感じることがあるかもしれません。しかし今回のMacBook Proは、非常に優れたノートPCであり、多くの人にとって最高のものとなるでしょう。
MacBook Pro(2021)
これは何?:M1 ProまたはM1 Maxシステムオンチップを搭載した、プロレベルの大型ノートPC
価格:14インチは23万9800円から、16インチは29万9800円から(レビューしたモデルは41万9800円)
良いところ:息を呑むようなパフォーマンス、美して明るいminiLEDディスプレイ、魔法のように動くFaceTimeカメラ、プロにとっても実際便利なポート、今まで以上に良くなったMagSafe、急速充電が速いこと
残念なところ:バッテリー駆動時間は去年のM1 MacBook Air / Proに及ばず。USB-Aポートがもうひとつあればもっと良かった
まさか自分がポートごときに喜ぶような人間だとは思っていませんでしたが、実際SDカードをスロットに入れ、(アダプタを接続しないで)数年ぶりに直接MacBook Proに写真を転送していることに、正直非常に興奮しています。
MacBook Proにポートが帰ってきたことは、周辺機器をたくさん接続する人にとっては、世界が変わるくらい画期的なことです。14インチ/16インチどちらのMacBook Proにも、3つのThunderbolt 4(USB-C) ポート、ヘッドホンジャック、HDMIポート、SDカードスロット、そして使いやすくなったMagSafe充電ポートが搭載(USB-Cでの充電も可能)。欲を言えばUSB-Aポートも搭載してほしかったですが、復活したポートのおかげで、必要なドングルが最小限に抑えられたことに感謝しています(今までUSB-Cだけで耐えてきたのはなんだったのかというほどに)。
新しいMacBook Proは、外部ディスプレイにも対応しています。M1 Pro バージョンでは2台の6K外部ディスプレイに60Hzで出力することが可能で、M1 Maxモデルでは3台の6K外部ディスプレイと1台の4K外部ディスプレイに60Hzで出力することができます。
さらにHDMI 2.0ポートは、4K TV(60 fps)に対応しています。SDカードリーダーはUHS-IIカードに対応、転送速度は最大250MB/sで、これは一部の人の期待値よりも遅いですが、私は古くて容量不足の16GB SDHCカードから、2,500枚以上の写真とビデオを、5分25秒でMacBook Proにインポートすることができました(そしてより高速なSDカードが必要だと確信しました)。
新しいMacBook Proは、シルバーとスペースグレイの2色展開で、昔のでっかいMacBook Proのように、思った以上にサイズは大きいです。14インチの重量は1.6kg、高さは1.55cm、幅は31.26cm、奥行きは22.12cm。16インチの方の重量は2.1kg、高さは1.68cm、幅は35.57cm、奥行きは24.81cmです。MacBook Airのように気軽に持ち運ぶのはためらわれますが、ポータブル性を犠牲にする代わりにポートとパワーでその価値を補うことができます。
去年、バタフライキーボードが廃止され、MacBookの全ラインナップがシザースイッチ式に一新しましたが、今回の新しいProも打鍵感があります。さらにほとんど役に立たなかったTouch Barが廃止され、物理ファンクションキーが復活しました。夢のようです。音量の調整やディスプレイの明るさの調整など、ちょっとしたことが物理キーを使って簡単にできるようになりました。Touch Barは動画の再生操作がやりやすかった良さもありましたが、それは諦めてより幅広い機能を操作できるように戻ってきたことに大満足です。
新しいMacBook Proには、最新の12.9インチiPad Proと同様、最大120Hzのアダプティブリフレッシュレートに対応したminiLED Liquid Retina XDRディスプレイを搭載しています。小さい方は14.2インチ、3,024×1,964ピクセル、590万画素、254ppiで、大きい方は16.2インチ、3,456×2,234ピクセル、770万画素、254ppiです。しかし重要なのはminiLEDの部分です。
14インチの方には、8,040個のminiLEDが2,010個のローカルディミング(バックライトの部分駆動)に配置され、16インチの方には10,216個のminiLEDが2,554個のローカルディミングに配置されています。ミニLEDは安価なLCDと高価なOLEDの間のようなもので、OLEDのコントラストやディテールを失うことなく、驚異的な輝度(ピーク輝度で最大1,600ニト、持続輝度で最大1,000ニト)を提供します。HDRは最高500ニトの古いMacBookのLCDスクリーンで見るよりも、ずっと臨場感が感じられると思います。1,000,000:1のコントラスト比とP3の広色域を持つスクリーンは全体的に非常に優れています。miniLEDスクリーンの欠点は、黒い背景の上に明るい要素の周囲にブルーミング(開花=色のにじみ)が発生するということですが、私のテストではほとんど気づかない程度でした。
新しいMacBook Proのベゼルは、側面と上面で3.5mmにまで縮小し、前モデルと比較して側面で24%、上面で60%薄くなりました。その代わりに画面上部には黒いノッチ(切り抜き)があり、iPhoneのセルフィーレンズと同じ、新しい1,080ピクセルのFaceTimeカメラが設置されています。最初私はこれに困惑しました。レンズは一新されましたが、Face IDは使えないし、ノッチの部分は暗い色の壁紙にして一体化させて違和感を消しています。しかし画面が物理的に広くなったことで、ウェブサイトの閲覧や写真の編集まで、あらゆるシーンで大きな違いが生まれました。これまでカメラの下に配置されていたメニューバーがカメラの横に配置されることにより、スクリーンの範囲が増えて、他のことに使えることになったからです。
記事の執筆、編集、ベンチマークから映画鑑賞、友達とのFaceTime、ウェブサイトの閲覧まで、1週間近くMacBook Proを使ってみて、iPhoneのように使い勝手に慣れてきました。カーソルがノッチの下にスライドして、バウンスせずに消えるのも良い感じですし、メニュー項目が多いソフトウェアは、下の写真のようにノッチの周りに項目が並びます。明るい壁紙にするとノッチがダサく見えるのは否めませんが。
MacBook Proのディスプレイには、iPad Proにも搭載されているProMotion機能が詰め込まれています。ProMotion機能はデフォルトで有効になっていますが、作業内容に応じて、リフレッシュレートを10Hzから120Hzの間で調整してくれる機能です。一度体験してしまうと、ProMotion非搭載のノートPCが使えなくなるほどです。ProMotionをオフにして、固定のリフレッシュレート(47.95Hz、48Hz、50Hz、59.94Hz、60Hz)で使用することもできます。試しに60Hzでにしてみましたが、1週間近く120Hzで慣らされた目には、その差は顕著に感じてしまいました。ProMotionをオンに戻すと、ぬるっとスムーズになります。
優れた機能はたくさんある中でも、新しいMacBook Proの最大のセールスポイントは、去年のM1チップから大きく進化したアップルの最新カスタムプロセッサ「M1 Pro」と「M1 Max」ですね。去年のM1と同様、M1 ProとM1 Maxも5ナノメートルプロセスで開発され、16コアのNeural Enginesを搭載していますが、コア数、RAM、ストレージをレベルアップさせました。また8コアのCPUと8コアのGPUを提供していたM1よりも、選択可能な構成は増え、カスタマイズの幅が大きく広がりました(最も安価なMacBook Airは、7コアのGPUを搭載したバリエーションで展開しています)。
ベースモデルである23万9800円の14インチMacBookに搭載されているM1 Proは、8コアCPUと14コアのGPUを搭載していますが、29万9800円の方にすれば10コアCPUと16コアのGPUにアップグレードできます。M1 Maxについては、10コアCPUと24コアGPUからスタートし、32コアGPUまでスペックを上げることができます。
次にユニファイドメモリーですが、これはCPUとGPUの両方で使用することができます。16GBをベースに、M1 Proでは最大32GB、M1 Maxでは最大64GB、14インチまたは16インチモデルで構成することができます。M1 Proは最大200 GB/s、M1 Maxは最大400GB/sのメモリ帯域幅をサポートしています。
ストレージの選択肢も豊富です。ベースモデルの14インチと16インチのMacBookは512GBから始まり、1TB、2TB、4TB、8TBまで変更可能です。M1 Maxに32GBメモリ、8TBのストレージまで積んでフルフルスペックにしたMacBook Pro 14インチは58万5800円になります。今回テストしたのは、10コアCPU、32コアGPU、64GBユニファイドメモリ、2TBのストレージを搭載した14インチ MacBook Proで、お値段は47万5800円になります。8コアCPU、16GBメモリ、2TBのストレージを搭載した最上位機種の13インチM1 MacBook Proだと25万8280円なので、この価格差は大きいですね。そこまでのパフォーマンス(そしてアップグレードされたディスプレイに増えたポート)が本当に必要かどうかは判断が迫られます。
それでもM1 Maxは本当に凄まじいチップであることは間違いありません。もしPCにパワーを求めるなら、M1 Maxを搭載したMacBook Proは買うべきです。M1 Max搭載のMacBook Proは、動画の書き出しから3D画像のレンダリングなど、プロセッサーを酷使する作業においては、今までテストしてきたどのノートPCよりも高速です。M1 MaxのMacBook Proは、Handbrakeを使って4Kビデオファイルを1,080pに変換するのにわずか4分50秒で完了しました。M1 MacBook Proだと同じ作業に8分、そしてこれまでテストしたWindowsノートPCではこれに匹敵するものはなく、Microsoftのプロ向け「Surface Laptop Studio」(インテルCore i7-11370HとNvidia RTX 3050 Ti GPUを搭載)は11分21秒かかり、「Razer Blade 14」(AMD Ryzen 9 5900HX CPUとRTX 3070 GPUを搭載)は7分26秒かかりました。
Blenderで3D画像のレンダリング作業に関しては、M1 MaxはCPU使用時で3分21秒、GPU使用時で4分56秒というスピードでした。その一方でRazer Blade 14は、CPU使用時で3分48秒、GPU使用時で5分58秒でレンダリングを完了し、MacBook Proに迫る勢いでした。
ソフトウェアの最適化に関する問題は、M1登場時よりもかなり減ったと思います。プロが使うクリエイティブ系アプリケーションの多くは、その後アップルのシリコン上でも動作するように最適化されてきたため、去年ARM Macが発売されたときにぶつかった問題は解消されつつあります。たとえば13インチのM1 MacBook Proでは、当時まだアップルのRosetta 2エミュレーションレイヤーを介して動作していたAdobe Premiere Proで4KビデオをHEVCにトランスコードするのは大変でした。現在Premiere ProはM1でネイティブに動作するようになり、4KファイルのHEVCへの変換時間は、13インチのProが280秒だったのに対し、14インチのProはわずか11秒になりました。
システム全体のパフォーマンスを評価する「Geekbench 5」では、シングルコアが1,777、マルチコアだと12,663と、期待通りの結果となりました。M1 MacBook Proのスコアが7,470だったので、マルチコアの数値は非常に優れています。「Surface Laptop Studio」(5,874)、「Razer Blade 14」(7,403)、「XPS 15 OLED with Intel Core i7-11800H」(7,477)と、パワーに優れていると言われるWindowsノートPCは新しいMacBook Proに及びませんでした。
Geekbenchよりもさらに時間をかけてテストする「Cinebench R23」だと、14インチM1 Max MacBook Proのマルチコアスコア(12,206)は、13インチM1 MacBook Proのマルチコアスコア(7,771)に比較して、特筆すべき結果です。AMD Ryzen 9 5980HSを搭載したAsus ROG Flow X13が最も近いスコア(11,659)を叩き出しました。
Macだといつもそうですが、ゲームのパフォーマンスに関しては要注意です。macOSでプレイできるビッグタイトルはほとんどありません。M1に最適化されたゲームを見つけるのはある意味挑戦的で、macOSにはAAAタイトル(開発にリソースやお金がかかっていて人気のあるゲームタイトル)がたくさんあるわけではありません。そのため、MacBook Proの怪力パワーにも関わらず、今回の私のテストではどのWindows PCにもかないませんでした。「Shadow of the Tomb Raider」の内部ベンチマークでは、M1 Max MacBook Proは解像度1,080p、高設定で毎秒67fpsを記録しました。この数値は同じテスト内容でも32fpsに留まったM1 MacBook Airよりは良い成績ですが、RTX 3070 GPUを搭載したRazer Blade 15 Advanced(112fps)、MSI GP66 Leopard(118fps)のようなゲーミングラップトップには及びません。
毎日毎日MacBook Proを使い込んでいましたが、ファンが回って熱くなってきたと感じたのは、「Shadow of the Tomb Raider」のベンチマークだけでした。それ以外は、とっても静かでクールでした。
今やビデオ通話は、生活や仕事において不可欠なものになっていますが、ウェブカメラの性能はなかなかそのニーズに追いついてきませんでした。私は去年のMacBookに対して(iMacにはある)1,080pのFaceTimeレンズが搭載されていないと批判的になっていましたが、今回のMacBook Proにはもうなんの不満もありません。カメラがめっちゃ良くなった。
4Kクオリティの話でもなく、肌を滑らかに見せる特別なメイクも必要ありません。フルHDカメラとイメージシグナルプロセッサが連携して、薄暗い場所でも魔法の照明になります。FaceTimeでポートレートモードをオンにすると、まるでデジタル一眼レフカメラで写しているような画質になります。これは控えめに言って素晴らしすぎる。
また、どちらのMacBook Proにも、4つのフォースキャンセリングウーファー、ふたつのトゥイーターの、計6つのスピーカーサウンドシステムが搭載され、音質もめちゃくちゃ良いと思います。音楽を聴きながら仕事をしたり、自宅でひとりでイヤホンを使わずにビデオ通話をしたりするときは、PCのスピーカーが良いに越したことはありません。新しいMacBook Proには、第3世代のAirPods、AirPods Pro、AirPods Maxに搭載されているダイナミックなヘッドトラッキングを備えた「空間オーディオ」にも対応しています。私はいつもAirPods Maxで空間オーディオ対応の映画を楽しんでいますが、同じ効果はMacBook Proでも得ることができます。この機能はアップルが言うほど画期的ではありませんが良い感じです。
MacBook Proの圧倒的欠点はバッテリー駆動時間です。M1 Maxの14インチモデルでの動画ランダウンテストでは8時間39分のバッテリー持ち時間でした。これは平均的なノートPCと比較すれば若干勝っていますが、去年のM1 MacBook Air(14時間2分)やM1 MacBook Pro(18時間)の驚異的なバッテリー駆動時間には及びませんでした。 ProMotion機能をオフにして再度テストしてみると、バッテリー駆動時間は1時間伸びましたが、ProMotionがデフォルトでオンになっている(そして絶対に使いたい)ことを考えると、このバッテリー駆動時間は少し残念でした。
仕事ではGoogle Chromeを使いますが、Chromeは相変わらずアホみたいにバッテリーを食います。Chromeの4時間の作業しただけで、MacBook Proのバッテリー残量は100%から60%に減りました。終日作業してもバッテリーは残っていますが、M1 MacBook Airにはまったくかないません。
でも、MacBook Proは急速充電に対応しているのが救いです。電池が切れた後、付属のMagSafe充電ケーブルと96WのUSB-C電源アダプタで充電、30分で51%まで回復しました(16インチの方には140Wの充電器が付属しています)。MagSafeの代わりにUSB-Cケーブルを使って充電することもできますが、MagSafeはなんていうか、気が利きます。USB-C受電ケーブルに足を引っ掛けてノートPCを落としたことが何度かあったのですが、MagSafeケーブルはマグネットは強力だけど取り外すのは簡単です。
ほとんどの人はパフォーマンスの性能だけでノートPCを決めることはないと思いますが、パフォーマンスだけなら、M1 Maxを搭載したMac Book Proは、間違いなく今買える最高の製品のうちのひとつです。ハイスペックノートPC市場は面白くなりそうです。インテルはまもなく第12世代のAlder Lakeプロセッサーを発表予定ですが、驚くべき性能だろうし、アップルとAMDの両方に良い刺激となるでしょう。
他にも考慮すべき前提があります。
あなたはゲーマーですか? WindowsとmacOSのどちらが好きですか? 仕事や趣味で必要なソフトウェアはM1のMacでネイティブに動作しますか? 性能だけでは判断できない部分もよく考慮しましょう。
そしてそのパワーに加えて、Proに搭載された信じられないくらい美しいディスプレイ、便利なポート、完璧なキーボード、そして高解像度になったウェブカメラが、新MacBook Proを魅力的にします。ただし高いです。普通の人が必要とする以上のオーバースペックなMacBookかもしれません。個人的には、これらの機能が安価なMacBookにも搭載されると良いなと思います。
しかし、このパワーを求めるなら、新しいMacBookは完璧に近いものだと思います。