Apple Musicの新しいコンテンツサービス「ロスレスオーディオ」をiPhoneで簡単に楽しむ方法を解説します
Apple Musicでは、7,500万曲以上の多彩なジャンル、アーティストの音楽作品を配信しています。個人プランは月額980円から利用でき、初めてApple Musicのメンバーシップに登録すると3カ月の無料トライアル期間が付いてきます。アップルは、6月8日から「ロスレスオーディオ」「空間オーディオ」という新しいコンテンツサービスを、従来の月額利用料金を据え置いたままスタートしました。
空間オーディオの楽しみ方を解説した前回の「手持ちのiPhoneで今すぐ試せる! Apple Music『空間オーディオ』を楽しむ方法」に引き続き、今回は「ロスレスオーディオ」のサービスについてiPhoneで楽しむ方法を中心に紹介します。
ロスレスオーディオは、Apple Musicで配信する音楽の情報量を増やし、解像度を上げて「よりいい音」でリスニングを楽しむための新しいサービスです。
従来から、Apple Musicのコンテンツはアップルが独自に開発したAAC(Advanced Audio Codec)形式のコーデックを使ってファイル化され、高音質とモバイル通信ストリーミングにも適したコンパクトなサイズに圧縮した状態でユーザーに送り届けられます。
6月8日から、Apple Musicはこの従来のAAC形式によるストリーミングのほかにロスレス圧縮、つまりオリジナルの楽曲データをそのままの音質で聴けるように配信するロスレスオーディオのサービスをスタートしました。現在7,500万以上の楽曲を揃えるApple Musicのカタログがすべてロスレス版で用意され、ユーザーがミュージックアプリの設定から自由に音質を選べるようになります。ロスレスオーディオに対応していないApple Musicのコンテンツには、ミュージックビデオやApple Music 1のラジオ番組があります。
Apple Musicのロスレスオーディオは、それぞれのOSを最新バージョンにアップデートしたiPhoneにiPad、Mac、Apple TVで聴くことができます。iPhoneを使ってセットアップしたSiri内蔵のスマートスピーカー「HomePod mini」も、今年の後半に予定するソフトウェアアップデート以降に現在のAAC形式による再生に加え、ロスレス高音質再生を選択できるようになります。Android版「Apple Music」アプリとWebブサウザーによるApple Musicのリスニングについては、今のところロスレスオーディオへの対応に関するアナウンスがありません。
ロスレスオーディオ配信は、Apple Lossless Audio Codec(ALAC)という、アップル独自の可逆性を持つ圧縮形式により配信されます。CDと同等の44.1kHz/16bit、あるいはそれよりも少し高品位な48kHz/24bitの音楽作品が「ロスレス」対応のコンテンツとして、iPhoneなどで再生した場合、再生画面にロゴマークが表示されます。ロゴマークをタップすると、楽曲の解像度情報が確認できます。
AAC形式による配信を選択すると、ビットレートは最大256kbpsになります。一方で「ミュージック」アプリの設定から「オーディオの品質」に入り、「モバイル通信ストリーミング」を「ロスレス」に選択すると、44.1kHz/16bitの音源を再生した場合にビットレートは5倍以上の1.4Mbpsになります。つまり、ロスレスによるストリーミングを選択すると、より多くのデータ通信が使われることになります。
モバイル通信でApple Musicのロスレス再生を聴き続けた場合、データ通信容量が無制限、あるいは大容量パッケージのプランを利用されている場合は問題にならないかもしれませんが、データ容量の上限が少なめなMVNOによる格安通信プランを選択している場合は、モバイル通信ストリーミングの設定には注意しましょう。Wi-Fiに接続できる場合にだけロスレスオーディオで楽しむ、という聴き方を選ぶこともできます。
はじめにデータ通信容量に関する注意事項を長々と述べてしまいましたが、ロスレスオーディオの醍醐味は、対応するオーディオ機器を揃えて聴くと「さらにいい音」が楽しめるところにあります。アップルはAACバージョンの配信、特に力を入れて取り組んできた“圧縮しているのにいい音”の「Apple Digital Masters」に対応する作品の音質にも自信を持っているので、先に紹介した「空間オーディオ」に比べるとロスレスオーディオをあまり革新的な体験として強くうたってはいませんが、筆者はこれを試してみる価値は十分にあると思っています。ここでは、iPhoneでロスレスオーディオを楽しむ方法を解説します。
まず、iOSは最新の14.6以降にアップデートしましょう。続いて先ほど触れた通り、「ミュージック」アプリの設定から「オーディオの品質」に入り、「ロスレスオーディオ」をアクティベートします。ここに並んでいる「ハイレゾロスレス」については、このあとに解説します。
iPhoneでロスレスオーディオを聴く場合、最も簡単な方法は「内蔵スピーカー」を使うリスニングスタイルです。ただし、空間オーディオに比べるとロスレスオーディオはその違いを内蔵スピーカーで聴き分けることはやや難しいかもしれません。周囲の環境音に邪魔されると、音の解像感や濃淡の差が現れにくくなるからです。
したがって、ロスレスオーディオの場合はヘッドホン、またはイヤホンによる再生がおすすめです。ただ、ここで注意したいことがあります。ロスレスオーディオのリスニングにはBluetooth接続のヘッドホン・イヤホンが使えないということです。
もっと正確に説明するのであれば、アップルのデバイスが現在採用するBluetoothオーディオがロスレスによる伝送には対応していないため、AirPodsシリーズを含むBluetooth接続のヘッドホン・イヤホンで聴く場合は、アップルが高音質を保証するAAC形式で聴く方が最適なのです。
話題を戻して、Apple MusicのロスレスオーディオをiPhoneで楽しむためのヘッドホン・イヤホンの選び方を紹介します。
筆者が一番かんたんと考えるおすすめの選択は、iPhoneのLightning端子に直結できるアップル純正の「EarPods with Lightning Connector」、または他社製のLightning直結型の有線イヤホンです。48kHz/24bitのちょっと高音質なロスレス作品も、そのままの音質で聴くことができます。
または、アップル純正のiPhone用アクセサリー「Lightning-3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ」を使って、手元にあるヘッドホンやイヤホンを活用する方法も手軽で良いと思います。アダプターにオーディオケーブルをつないで、アンプを内蔵するパワードスピーカーやオーディオコンポーネントにつないで聴く手段もあります。
Apple Musicには、48kHz/24bitの情報量を超える、最大192kHz/24bitの「スタジオで制作されたままの音質」で楽しめるハイレゾロスレスオーディオに対応する作品も、スタート当初から100万曲以上が揃いました。オーディオファンにとっては月額980円(個人プランの場合)から手軽に楽しめる“ハイレゾ対応”の定額制音楽配信サービスとして、非常に魅力的なサービスです。
iPhoneでハイレゾロスレスを存分に楽しむためには、ハイレゾ対応のUSB-DAC内蔵ヘッドホンアンプを用意しましょう。オーディオ機器の側に同梱されているUSBケーブルを使えばiPhoneに直結できる製品もありますが、そうでない場合はアップル純正の「Lightning-USBカメラアダプタ」を介して接続します。
筆者も、iPhoneでハイレゾを楽しむための機材をいくつか持っていますが、多くのUSB-DACはアップルが動作を保証しているものではないため、なかには上記の機材を揃えてもオーディオ機器の消費電力が大きいため、ポータブル環境では使えない場合もあります。据え置きタイプのUSB-DAC内蔵ヘッドホンアンプなど、コンポーネントの方が比較的使いやすいように思いますが、購入を検討する際には家電・オーディオショップのスタッフに相談してみることをおすすめします。ハイレゾロスレスは音質の良さだけでなく、選んだ製品の「音の違い」をより明快に伝えてくれるところに醍醐味があります。ぜひ機会を見つけて楽しんでほしいと思います。
ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。
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