9月10日、自民党総裁選に出馬表明した高市早苗・前総務相はテレビ朝日の番組で敵基地攻撃論に関連して「電磁波で敵基地を無力化する」と語りました。EMP(電磁パルス)攻撃に言及したものです。
ただし最初に結論を言えば、喫緊の課題である北朝鮮の弾道ミサイルに対してはほとんど効果がありません。北朝鮮の弾道ミサイルは移動発射機であり、戦争直前には基地を出撃して行方を晦まします。基地を無力化しても意味はありません。そうなると移動発射機を見付けだして付近にEMP弾を撃ち込む必要がありますが、目標を見付けだすこと自体が困難を極めるという問題が立ち塞がります。
「敵基地攻撃能力」では弾道ミサイルを阻止できない根拠と実戦例
通常炸薬を用いて磁束を圧縮し電磁パルスを発生させるEMP弾の効果範囲はそこまで広いものではありません。機密が多く正確なことは分かりませんが、仮に半径数十mから広くても数百m程度であった場合、目標の居場所をある程度は把握していないと攻撃しても無駄になります。
もともとEMP弾は居場所が分かっている纏まった場所にいる敵目標を一網打尽にする目的の兵器です。すると基地から出撃したら散開し隠れながら逃げ回る弾道ミサイル移動発射機は、EMP弾で狙うにはかなり相性の悪い相手になります。
そもそも発射前の弾道ミサイル移動発射機に対してEMP弾でどこまで効果があるのかよく分かりません。本来EMP弾の目標として考えられているのは起動中のレーダーや通信システムなどの電子回路なので、起動していない状態のミサイルには満足な効果が得られない可能性があります。
弾道ミサイルへの電波妨害は無意味で効果無し
また電磁波攻撃とは少し違いますが、電波妨害も弾道ミサイルに対してはほぼ効果がありません。
なお電磁波攻撃で弾道ミサイルに効果があるものは過去に一つだけ例がありました。冷戦時代のABM(弾道弾迎撃ミサイル)は核弾頭を持つ迎撃ミサイルで、突入して来る敵弾道ミサイルの至近で核爆発し強力な放射線(電磁波の一種)で目標の電子回路を破壊し無力化します。
そしてこれは逆に言えば、弾道ミサイルを電磁波で無力化するには核爆発による放射線でさえ至近距離から行う必要があるということを意味します。
※ABM・・・アメリカの地対空ミサイル「ナイキ・ゼウス」「スプリント」、ソ連/ロシアの地対空ミサイル「51T6」「53T6」。
電磁波爆弾(EMP弾)
実は日本防衛省では以前から通常炸薬を用いて磁束を圧縮する電磁波攻撃用EMP弾が研究されてきました。ただし部品調達の問題が生じて現行研究は続行が困難となり、一旦中止してから直後に再始動する予定となっています。
運用構想図では島嶼に上陸してきた敵部隊の付近に撃ち込む想定となっています。図で分かる通り、効果範囲は戦域全体に及ぼせるほど広いものではありません。それでも通常の爆弾やミサイルよりは広範囲に影響を及ぼせる兵器です。
EMP弾の目的として「敵のセンサー・情報システムを無力化する」とある通り、レーダーや通信システムを無力化することを狙っています。敵の目と耳を潰す狙いですが、敵が修理したり代替機材を用意すれば復活してきます。敵を混乱させ一時的に時間を稼いだ隙に本命の直接攻撃を叩き込むという使い方になります。
EMP弾はこれさえあれば敵を無力化できる万能兵器というわけではなく、むしろ妨害用のサポート役の装備ということになるでしょう。